ナノテク情報

ナノテク・材料

安全で安価な白と黒の化合物から色鮮やかな顔料を作製 ~白色非結晶性シリカ微粒子サイズと黒色タンニン酸鉄コーティング回数で色相調整~

 名古屋大学は2019年8月21日,同大学院工学研究科の坂井美紀研究員,竹岡敬和准教授らの研究グループが,砂や珪藻土の主成分である非結晶性シリカと,お歯黒にも使われたタンニン酸鉄から様々な鮮やかな色の顔料が得られることを発見したと発表した.本成果は米国化学会が発行するACS Sustainable Chemistry & Engineeringsに掲載された(注).

 2009年に開催された第2回国際化学物質管理会議では,塗料などに含まれる鉛の人への害の問題が取り上げられ,2020年までに鉛系顔料を廃絶する目標を掲げた.環境問題への取り組みが進む欧州では,水銀・カドミウム・六価クロムなどの重金属を含む色材に関しても規制を強めている.さらに,染料全体の60~70%を占めるアゾ染料(窒素の二重結合を持つアゾ基を有する染料)も,発がん性を示す可能性が高い理由から一部が既に使用できなくなっている.従って,安全な材料を利用した代替え色材への転換が緊急課題になっており,自然界に豊富に存在し,環境負荷性が低い化合物を利用した色材作りが求められている.

 この課題に対し本研究グループは,地球上に無尽蔵に存在するシリカを主成分とした微粒子と,植物由来のタンニン酸(TA)と鉄(Fe)から得られるタンニン鉄(Fe-TA)を用いて,安全で安価な顔料作りを試みた.球状でサイズが揃った数100nmの非結晶シリカの微粒子は,乾燥した状態では白い色を示す.一方,Fe-TAは昔,お歯黒として用いられていた黒い化合物である.両化合物とも,化粧品・顔料・食品添加物などに利用されており,たとえ食したとしても安全な素材である.本研究グループは,これらを組合わせることで,様々な色の色材が得られることを見出した.

 実験では,先ず粒径が200nm/250nm/300nmの球状シリカ微粒子を用意した.次に,このシリカ微粒子の周りにFe-TAをコーティングする.コーティング回数を増やすにしたがって,コーティングされるFe-TAの量が増し,濃さが異なる灰色の微粒子が得られた.その後,これら灰色の微粒子の集合体を形成すると,その集合状態に応じて色相(青,緑,赤など)や鮮やかさが異なる顔料になることを見出した.また,用いるシリカ微粒子のサイズやコーティングするFe-TAの量に応じて,その集合体から観測される色が様々に変化することが明らかになった.

 微粒子のサイズ分布測定や電子顕微鏡による観察などから,白色の非晶質微粒子への黒色のFe-TAコーティングで何故様々な色相の顔料ができるかを解明した.即ちシリカの非晶質微粒子の集合体は,粒子サイズが揃った短距離配列秩序があるために特定波長の光を散乱し,かつ非晶質化しているために全方向へ散乱する.この非晶質による構造色では淡くぼんやりとした色しか生み出せない.非晶質微粒子に黒色のFe-TAをコーティングすることで,光の多重散乱を抑止し,鮮やかな色相を呈するようになるという.また,Fe-TAにTAを加えると顔料の機械的安定性が増し,ガラス基板への接着性が向上するので、塗膜応用に適する.

 本成果で得られた顔料は,安全で安価な素材から作られた顔料であるため,現在問題視されている重金属を含有する顔料や発がん性を示す染料に替わる新しい色材になることが期待される.

(注)Miki Sakai, Takahiro Seki, and Yukikazu Takeoka, "Colorful Photonic Pigments Prepared by us-ing Safe Black and White Materials", ACS Sustainable Chemistry & Engineering 2019, Publication Date: August 8, 2019; doi: 10.1021/acssuschemeng.9b03165