【メンテナンスのお知らせ】11/1(金)16時頃~11/5(火)10時頃、本Webサイトの閲覧ができなくなります。
ご不便をおかけし、大変恐縮ですが、どうぞ宜しくお願いいたします。
 

ナノテク情報

デバイス・応用

世界最高レベルの波長分解能を持つ分光型赤外線センサーを開発 ~50nm台の波長分解能と±1°の指向性を実現 より高度な温度センサーや位置センサー実現へ~

 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)と同科学技術振興機構(JST)は2019年8月26日,NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の長尾忠昭グループリーダーらの研究グループが,物質の熱輻射を波長分解し,かつ,飛来する方向を絞って検出できる多波長型の赤外線センサーを開発したと発表した.本研究は,JST戦略的創造研究推進事業CREST「エネルギー高効率利用のための相界面科学」やNIMS微細加工プラットフォームの支援を受けて行なわれた.本成果は,John Wiley & Sons社が発行する科学総合誌Advanced Scienceのオンライン速報版に掲載された(注).

 物体は熱輻射として赤外域の電磁波(赤外線)を放出しており,物体を構成する材料や温度に応じて異なる波長分布の電磁波を放出する.しかし,既存のサーモグラフィーや赤外線カメラでは,電磁波を波長分別する能力が無く,広い波長範囲の総和として計測している.そのため,予め波長分布が分かっている人体などは比較的正確に温度が求められるが,熱輻射の波長分布が分からないコーティング材料や,分布が温度と共に変化するような半導体材料などの温度計測では,大きな誤差が生じ問題となっていた.

 この問題に対し本研究グループは,1cm×1cmのSiチップ上に,それぞれ異なる波長に応答する赤外線素子を4つ搭載した,分光型のオンチップ赤外線センサーを開発した.一つ一つの素子は,特定の波長の電磁波だけを熱に変える表面構造を持ち,発生した熱を焦電体で電気信号に変換する.具体的には,極微小な隆起構造を周期的に配置し,その隆起構造の周期を調整することで吸収する波長を調整する.また,垂直に入射した波長のみを吸収するので,指向性がある.さらに隆起構造のサイズと高さを精密に調整することで,高い感度と指向性,そして世界最高クラスの波長分解能を実現することに成功した.

 本研究で試作したセンサーは,中赤外帯域の4つの波長(3.5μm/3.7μm/3.8μm/3.9μm)に対して50nm台の波長分解能で応答し,かつ指向性も±1°となるように4つの素子を製作して並べることで,世界初の高い波長分解能と指向性とを同時に持つ,多波長オンチップセンサーを実現した.各波長の赤外線センサーのサイズは2mm角で,表面にはSiの薄い円板(厚さ0.34μm)を2次元格子状に規則的に配列し,表裏面をAu薄膜(厚さ0.1μm)でコーティングすることで,特定波長の赤外線のみがプラズモン共鳴で100%吸収される.Si円板の配列周期は3.5μm/3.7μm/3.8μm/3.9μm,円板直径は周期の半分(1.75μm/1.85μm/1.90μm/1.95μm)に設定することで,吸収波長を調整している.センサーに吸収された赤外線は熱になり,センサー下面に集積されたZnO層(厚さ0.3μm)の焦電体で熱量に比例した電気信号を出力する.波長可変の赤外線レーザを使って試作したセンサーの吸収特性を測定した結果,波長選択性能 50nm,指向性能±1°を確認した.

 今回の成果を応用することで,温度などの状態や物体の材質に関する情報を非接触で「見る」ことができ,真温度計測,工場ラインの品質状態管理,住宅やオフィスのひと見守りセンサー,車載環境センサーなど,高度な認知能力を持つセンサーシステムの開発につながることが期待される,としている.

(注)Thang Duy Dao  Satoshi Ishii  Anh Tung Doan  Yoshiki Wada  Akihiko Ohi  Toshihide Nabatame  Tadaaki Nagao, "An On-Chip Quad-Wavelength Pyroelectric Sensor for Spectroscopic Infrared Sens-ing", Advanced Science, Early View, DOI: 10.1002/advs.201900579; First published: 26 August 2019