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ナノテク情報

物性・原理

非磁性半導体/強磁性半導体ヘテロ接合における新しい電子伝導現象を発見 ~次世代のスピントロニクス・デバイスの実現に新たな道筋~

 東京大学は2019年8月27日,同大学院工学系研究科電気系工学専攻の瀧口耕介 大学院生,Le Duc Anh助教,田中雅明 教授らのグループが,すべて半導体でできた非磁性半導体/強磁性半導体からなる二層ヘテロ接合を作製し,磁場を印加したときの電気抵抗の変化(磁気抵抗効果)は最大で80%を実現し,金属や絶縁体を用いた同様の構造に比べて約800倍大きな値を得るという新しい電子伝導現象を発見したことを発表した.本研究の一部は,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST),文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業 微細構造解析プラットフォームなどの支援を受け,この成果は,Nature Physicsの電子版に掲載されている(注).

 パーソナルコンピュータやスマートフォンが普及する高度情報化社会が進展する中,IoTや人工知能に注目が集まっており,ますます膨大な情報処理や情報記憶に対処するシステムが求められている.既存のトランジスタでは,情報は電荷の有無により表現されるので,その保持に大きなエネルギーが必要という問題がある.これに代わる技術として,電子のスピンの向きで決まるN極,S極の磁化を情報の0と1に対応させるスピントロニクスの研究開発が盛んに行われている.磁化の向きは一度決まればその保持にエネルギーは必要ない.課題は磁化の情報を電気的に読み出すことである.物質の電気抵抗が磁場の印加で変化する磁気抵抗効果の活用がその一手段であり,ノーベル物理学賞(2007年)の受賞対象になった巨大磁気抵抗効果や,すでにハードディスクドライブの読み出しに用いられているトンネル磁気抵抗効果などがある.しかし,磁性層が多数必要で複雑な構造を要するため,デバイス製作が困難という問題がある.一方,本研究と同様,非磁性体/強磁性体からなる二層ヘテロ接合を用いた先行研究では,構造は単純であるものの,電流と磁性の結合が弱いため,磁気抵抗変化が非常に小さくおよそ0.1%程度しかないという問題点があった.

 研究グループが作製した構造は,非磁性半導体であるヒ化インジウム(InAs)薄膜(厚さ15nm)とアンチモン化ガリウムに鉄を添加した強磁性半導体GaFeSb(研究グループ開発の室温で強磁性を示すp型半導体Ga1-xFexSb)の薄膜(15nm)を積層した二層のヘテロ接合である.ここでInAs層は2次元量子井戸を形成している.そこを流れる電子の波動関数は隣接するGaFeSb層にも一部が空間的に浸み出し,電流と磁化の結合を生む.結果としてGaFeSb層の磁化の変化が磁性近接効果によるInAs層の磁気抵抗効果を高め,80%の値が得られた.これは金属や絶縁体を用いた同様の二層ヘテロ接合の磁気抵抗に比べて約800倍大きな値である.また,InAs層の表面に絶縁層を介してゲート電極を設けたMOS(Metal-Oxide- Semiconductor)トランジスタ構造にしてゲート電圧によって波動関数の位置を制御できるので,磁気抵抗を変調することができた.即ち,電流と磁化の結合そのものを電気的な手段で制御することができることを示している.

 本研究は,ゲート電圧により電子状態を制御できるという半導体の利点に,強磁性体の持つ不揮発な性質を付与したこと,および,磁化の情報を読み出す手段として大きな磁気抵抗効果を創出する方式を提言できたことで,強磁性半導体を用いた次世代スピントロニクス・デバイスの実現に向けて新たな道筋を示すことができたとしている.

(注)Kosuke Takiguchi, Le Duc Anh, Takahiro Chiba, Tomohiro Koyama, Daichi Chiba & Masaaki Tanaka, "Giant gate-controlled proximity magnetoresistance in semiconductor-based ferromagnetic-non-magnetic bilayers", Nature Physics (2019), doi: 10.1038/s41567-019-0621-6; Published 26 August 2019