【メンテナンスのお知らせ】11/1(金)16時頃~11/5(火)10時頃、本Webサイトの閲覧ができなくなります。
ご不便をおかけし、大変恐縮ですが、どうぞ宜しくお願いいたします。
 

ナノテク情報

ナノテク・材料

2ナノメートルの分子の歯車 ~ナノサイズの分子の歯車が噛み合い,回転が連動するのを初めて観測~

 奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は2019年9月5日,同大学 先端科学技術研究科 物質創成科学領域 バイオミメティック分子科学研究室のGwénaël Rapenne教授,オハイオ大学 Saw-Wai Hla教授らの共同研究チームが,隣接させて配置した2つの歯車状分子が噛み合って,実際の歯車のように互いに逆方向に回転することを見いだした,と発表した.本研究は,文部科学省特別経費,同科学研究費補助金新学術領域研究"発動分子科学"などの支援を受けて,フランス・ツールーズ市に設置の"NAIST-CEMES国際共同研究室"で行われた.研究成果はNature Communications誌に公開され(注),オハイオ大学からも紹介された.

 ひとつの分子を超微細な機械部品のように働かせる分子マシンは,メモリやセンサ-などの分子サイズへの超小型化や,生体内で活動するロボットに繋がる夢の技術として期待されている.これまで研究チームは,実際の機械に類似の構造や動きを模した分子マシンの研究を行い,分子モーターを開発している.本研究では,金属基板上に,互いに逆向きの捻りのプロペラを持つ二つの分子モーターを,双方のプロペラを歯車が噛み合うように配し,一方の分子を回転させ,それと噛み合う他方の分子が逆向きに回転することをSTM(走査型トンネル顕微鏡)で確認した.

 本研究の分子モーターは,直径が約2ナノメートルで,土台部分とその上部に位置する回転部分から構成されている.土台部は,cyclopentadienylを中心としてその周囲に,5個のp-bromophenyleneを付加した構造である.また,回転部は,プロペラとなるindazole基を有する3個のthioesterが,1個のRu原子に配位した構造である.このRu原子は,土台のcyclopentadienylとも結合しており,これが自由に回転してモーターの回転軸となる.Auの(111)面を基板としてモーター分子を蒸着すると,回転部が上,土台部が下の状態で基板に吸着する.このときp-bromophenyleneのベンゼン環が右か左か何れかに傾くことで,分子の対称性が破れることになる.これにより,上部のプロペラの捻りも影響を受け,土台のベンゼン環が右に傾くと右巻きプロペラ,ベンゼン環が左に傾くと左巻きプロペラとなる.土台の傾いたベンゼン環と上部の捻じれたプロペラの関係は,ラチェットのように作用し,右巻きプロペラの分子は反時計回り,左巻きプロペラの分子は時計回りに,それぞれ一方向のみの回転が可能となる.

 分子モーターの回転は,ラチェット効果により,熱振動が一定方向に制限されることで生じ,熱振動の少ない低温においては,電場の印加やSTMの探針から加えられる非弾性的トンネル電子の刺激により誘起される.このため,STMを用いると,特定の分子モーターを操作して回転を始動し,回転の様子を観察することが可能であり,STMの測定を繰り返すことで動画としても観察された.回転実験は80Kの低温で行われたが,温度を5Kまで下げると回転は停止した.ひとつの分子モーターを始動すると,隣接する逆回転の分子モーターのプロペラが僅かに変位して回転を始める,というメカニズムで回転が伝達される.

 分子モーターの動きが,分子サイズの物体の移動を引き起こしたという観察も報告されており,研究チームでは,分子マシンを拡張し組織化することで,ナノサイズでの物質輸送,情報やエネルギーの伝達などの機能を持つ分子工場のようなシステムの構築を目指したいという.

(注)Y. Zhang, J. P. Calupitan, T. Rojas, R. Tumbleson, G. Erbland, C. Kammerer, T. M. Ajayi, S. Wang, L. A. Curtiss, A. T. Ngo, S. E. Ulloa, G. Rapenne, and S. W. Hla, "A chiral molecular propeller designed for unidirectional rotations on a surface", Nature Communications, Vol. 10, Article number: 3742 (2019), doi: 10.1038/s41467-019-11737-1; Published: 20 August 2019