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ナノテク情報

ナノテク・材料

自動車用の蓄熱セラミックスの開発に成功 ~弱い圧力で熱を放出~

 東京大学は2019年9月18日,同大学 大学院理学系研究科の大越慎一教授らの研究グループが,長期間熱エネルギーを蓄えることができ,弱い圧力の印加により蓄熱エネルギーを取り出すことのできる蓄熱セラミックスを見出した,と発表した.本研究は独立行政法人学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業等の支援を受け,詳細はScientific Reports誌で発表された(注).

 自動車のガソリンエンジンは燃料を燃焼させて得られる熱により気体を膨張させて動力を得ている.起動直後は燃焼熱エネルギーがエンジン内部を適切な温度に温めるのにも使われる.運転中の余剰熱エネルギーは大気中に放出される.いずれもエネルギー損失になる.運転中の余剰熱エネルギーを蓄えておき,起動時のエンジン加熱に使えれば省エネルギーになる.それには蓄熱材料が必要だが,これまでに知られた蓄熱材料は蓄積した熱を徐々に放出してしまう.

 大越教授らは,2010年に発見した,λ型五酸化三チタン(λ-Ti3O5)に着目した.λ-Ti3O5(λ相)は,ナノ微粒子化して初めて現れる相であり,ルチル型二酸化チタン(TiO2)を還元性雰囲気で高温焼成して合成される.大気圧下にあるλ相に圧力を加えると,結晶構造が変化して通常型のβ-Ti3O5(β相)となる.圧力を開放してもβ相は安定であるが,220℃程度で熱処理すると再びλ相に戻る.このサイクルは安定に何度も繰り返すことが可能で,大気圧におけるβ相からλ相への相転移は吸熱過程,加圧によるλ-Ti3O5からβ相への相転移は発熱過程である.λ相とβ相との間にはエネルギー障壁が存在し,一旦できたλ相は維持されるから,蓄えた熱は保持される.加圧によって蓄えた熱を取り出せるが,60MPa印加してもλ相からβ相への相転移は50%に留まっていた.自動車などで使える圧力は10MPa程度である.そこで,研究グループは,低圧応答性の蓄熱セラミックスの開発に取り組んだ.

 その結果,相転移に要する圧力を下げる新たな材料が見出された.この材料は,ルチル型TiO2を水素雰囲気下,1300℃で2時間焼成して得られたサブミクロンメートルサイズのブロック状結晶で,λ相が約80%,β相が約20%から成っている.研究グループは,この結晶をブロック型λ-Ti3O5(BL-λ結晶)と称している.BL-λ結晶に印加するトリガー圧力と,相転移後のλ相とβ相の割合の関係を粉末X線回折(PXRD)で調べると,圧力が高まるにつれβ相の割合は多くなるが,30MPa以上ではβ相の割合はほぼ90%で一定となることが分かった.また,λ相とβ相の割合が半々になる圧力は7MPaであった.試料をハンマーで打つと,温度が26.8℃から85.5℃まで瞬時(67ミリ秒未満)に上昇し,その後は指数関数的に低下することがサーモグラフィーで観察された.この発熱は235±7kJL-1の熱エネルギー放出に相当する.一方,示差走査熱量計により,BL-λ結晶は,471K(198℃)まで加熱すると,237kJL-1の熱エネルギーを蓄積することが分かった.BL-λ結晶の蓄積する237kJL-1という潜熱エネルギーは,水(320kJL-1),パラフィン(140kJL-1),ポリエチレングリコール(165kJL-1)などの他の固体-液体相転移材料の潜熱エネルギーと同等で,長期間安定に保存でき,数MPaの圧力を印加するだけで容易に取り出すことができるという特徴がある.

 研究グループでは,本材料が自動車エンジンに設置する暖気運転短縮システムや,太陽熱発電における蓄熱システムに利用されることを期待している.

(注)Shin-ichi Ohkoshi, Hiroko Tokoro, Kosuke Nakagawa, Marie Yoshikiyo, Fangda Jia, and Asuka Namai, "Low-pressure-responsive heat-storage ceramics for automobiles", Scientific Reports, Vol.9, Article number: 13203 (2019), DOI: 10.1038/s41598-019-49690-0; Published: 18 September 2019