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物性・原理

紫外線照射で純氷にマイナスの電気が流れることを発見 ~氷の新しい電気的性質が明らかに~

 北海道大学は2019年10月9日,同大学低温科学研究所 渡部 直樹教授らの研究グループが,真空中で極低温の氷に紫外線と電子を照射することで,氷内部にマイナスの電気が流れ,その電流は紫外線のオン・オフで鋭敏な制御ができることを発見した,と発表した.本研究の成果はChemical Physics Letters誌に掲載された(注).

 純粋な氷(純氷)は半導体としての性質を持ち,その電気伝導は,氷中に僅かに存在する「余剰陽子」が水分子と結びつき,H3O+というプラスイオンとなることで,水素結合を通して隣接する水分子に次々と陽子を渡してプラス電荷が移動する,というグロットゥスメカニズムが1800年代初頭から知られている.しかし,氷は金属と異なり自由電子を持たないため,純氷では電子流による電流は存在せず,マイナス電荷の移動による電流はほとんど無いものと考えられていた.

 本研究において,研究グループは,ニッケルを蒸着したサファイアガラスを超高真空中でマイナス220℃程度に冷却し,そこへ超純水の水蒸気を吹き付けてニッケル表面に非晶質な純氷の薄膜を形成した.純氷膜の表面に電子を入射しながら紫外線を照射すると,裏面のニッケルとアースの間に電流が流れることが観察された.すなわち,氷の表面に入射したマイナス電荷(電子)が,氷内部を移動してニッケル表面に到達したのである.電流は紫外線照射の有無に応じて直ちに応答するので,紫外線で電流のオン・オフ制御が可能である.この現象を解明するため量子化学理論計算を行ったところ,紫外線により氷表面の水分子が分解してOHが生成し,これが氷表面に入射した電子を捕らえてOHイオンとなり,電子のキャリア(プロトンホール)となることが分かった.グロットゥスメカニズムによりプラス電荷が移動する場合,H3O+から水分子に陽子を渡す際のバリアを超えるための熱エネルギーが必要であり,おおよそマイナス80℃以下では電流が流れない.それに対し,本研究で発見されたマイナス電荷の移動による電流は,電荷の移動に熱エネルギーを必要とせず,マイナス220℃以下(10~50K)でも温度に依存することなく流れることが確認された.さらに,マイナス電荷の移動には,微量不純物や結晶欠陥のようなものが関与することもない.本研究の成果は,①氷中をマイナス電荷が定常的に流れ得ることの発見,②この電流の紫外線による制御可能性,③プラス電荷の流れと異なり極低温でも電流が流れる,という3点にまとめられる.

 本研究はスタートランインに立ったところであるが,今後,氷の新しい電気化学的性質として研究対象となり,地球惑星科学や天文学において,極低温における有機分子の生成や進化に重要な役割りを果たすと思われる,極温氷表面反応の新らたな展開を与えるきっかけになることが期待されるという.

(注)N. Watanabe, W. M. C. Sameera, H. Hidaka, A. Miyazaki, and A. Kouchi, "Ultraviolet-photon ex-posure stimulates negative current conductivity in amorphous ice below 50 K", Chemical Physics Letters, doi: 10.1016/j.cplett.2019.136820; Available online 3 October 2019