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皮下の血管の様子を非接触・リアルタイムで鮮明に可視化 レーザー照射とカメラ撮影の僅かなギャップで散乱光をキャッチ ~注射・採血,診断などの医療応用に期待~

 奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は2019年10月24日,同大学先端科学技術研究科 情報科学領域 光メディアインタフェース研究室の久保尋之 助教らと,米国・カーネギーメロン大学のSrinivasa G. Narasimhan教授,アリゾナ州立大学のSuren Jayasuriya助教らによる共同研究グループが,皮下の血管の様子を非接触かつリアルタイムで鮮明に可視化する技術を開発したと発表した.NAISTは英文リリースも行い,これを海外科学サイトScienceDailyが紹介している.本研究成果は,国際学術誌IEEE Transaction on Visualization and Computer Graphics (TVCG)に掲載された(注).

 光源から肌に光を照射すると,光の大部分は肌の表面で反射し,ごく一部の光が肌の内部に入りこみ血管で散乱され肌を通過して外部へ漏れ出る.従って,通常は肌の表面しか見えず,皮下の血管はうっすらとしか見えない.表面反射光を遮断し,内部からの散乱光のみを検出できれば,皮下の血管をはっきりと観察できるはずだ.その技術が実現すれば,血管が細いために注射や採血が難しい高齢者や子どもの静脈の視認が容易になるほか,足の血管がこぶのように膨らむ下肢静脈瘤などの疾患の診断などへの応用が期待される.

 本研究グループは,プロジェクタとカメラを用いて観測し,画像処理の技術を用いて,皮下の血管を可視化することに成功した.本研究では,光が肌に当たった位置と内部血管を経由して外に出てくる位置との間には,僅かなギャップが生じることに着目した.まず,市販のレーザー走査型のプロジェクタとローリングシャッター方式(カメラのセンサ素子が上部のラインから順に露光が開始される方式)のカメラを並行に配置する計測装置を構築した.このプロジェクタの光線とカメラのシャッターは,被写体を高速にスクロールしている(0.5ms/line).従来のプロジェクタ-カメラ時間同期式システムでは,レーザー走査型プロジェクタによる照明とローリングシャッター方式のカメラによる撮影とをタイミングを合わせて行うので,光源から出た光を被写体に当てる位置とカメラが観測する観測する被写体の位置は常に一致している.

 本研究では,光線の照射と撮影のタイミングに0.4ms~0.6msのごく僅かな遅延時間を意図的に挿入することで,光線を照射する位置とカメラで観測する位置との間に僅かなギャップ(距離)を設けた.その結果,肌表面で反射される光に影響されずに,肌の内部を通過して散乱する光だけを選択的にとらえることが出来るようになった.深さ1~5mmの内部を可視化でき,実際に腕の肘部・顔部・下肢部などで,皮下の血管の様子を非接触でリアルタイムに映像化することに成功した.

 本システムは外光の影響を受けにくいため,日常的な明るさの室内で利用が可能であるうえ,光源は可視光を用いているため,X線などと比較して健康への影響が少ない.さらに,小型でかつ安価な構成のため,家庭や発展途上国での利用も期待される,としている.

(注)Hiroyuki Kubo ; Suren Jayasuriya ; Takafumi Iwaguchi ; Takuya Funatomi ; Yasuhiro Mukaiga-wa ; Srinivasa G. Narasimhan,"Programmable Non-Epipolar Indirect Light Transport: Capture and Analysis", IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics (Early Access), doi: 10.1109/TVCG.2019.2946812; Date of Publication: 21 October 2019