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亜臨界水熱電解によるグラフェンと水素の同時生成 ~グラフェンの新しい合成法~

 東北大学は2019年12月10日,同大学 多元物質科学研究所 笘居 高明准教授,本間 格教授,東北大学学際科学フロンティア研究所 中安 祐太助教らが,亜臨界水反応場を適用することで,電気分解によるグラフェン合成に世界で初めて成功したと発表した.本研究成果は主に,独立行政法人日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究A「炭素循環コプロダクション水素製造システムの研究」により得られ,国際誌Carbonのオンライン版に掲載された(注).

 カーボンの単原子層からなるグラフェンは,透明導電膜,電池電極の導電助剤など様々な分野で実用化研究が進められている.グラフェンは当初,グラファイトに粘着テープを貼り付けて剥がしとることで作られたが,炭素化合物を用いたCVD(化学蒸着)による合成,炭化ケイ素(SiC)の熱分解により,炭素原子を含む原料の分解,炭素原子の組み上げで作製できるようになった.グラフェンの合成では,活性化障壁を越えて,反応を促進させる必要があり,CVDや熱分解では大量の熱エネルギーを与える必要があった,電気エネルギーを併用することで熱エネルギー消費を抑えられるが,炭素材料の電気分解では,アモルファスカーボンなどの結晶性の低い炭素材料しか合成できない.

 研究グループは,結晶性ナノカーボンを比較的低温で成長させるために,亜臨界水を溶媒に用いた電解合 成法に着目した.水は,臨界点(374℃,22MPa)以上の温度,圧力条件で,液体とも気体とも区別できない超臨界水状態となる.臨界点よりもやや低い温度,圧力条件にある水は亜臨界水と呼ばれ,300℃の亜臨界水溶媒は,常温常圧の水と比較し,2桁以上も高いイオン積を持つため,電気化学反応を促進させる.そこで,300℃で,10~12MPaの圧力を印加した酢酸の亜臨界水溶液を3.5Vの電圧で電気分解したところ,白金陰極表面にグラフェンが合成できることを世界で始めて見出すことに成功した.

 この水熱電解法の合成メカニズムは,酢酸のメチル基:CH3+が水とともに電気化学的に還元されて,水素(H2)と炭素(C)になり,H2は空中に放出され,Cがグラフェンになって陰極に堆積したと考えられた.この合成メカニズムであれば,酢酸以外にも蟻酸,エタノール,メタノールからも同様のグラフェン合成が出来る.同時に水素が発生しているから,本プロセスは,有機物中の炭素をグラフェンとして固定化しつつ,水素を取り出す,グラフェン-水素のコプロダクションプロセスとして成立する.

 将来的に本プロセスは,太陽電池や風力発電等の再生可能電力を利用して,バイオマス資源や天然ガスなどからクリーンエネルギーである水素と高機能性カーボンであるグラフェンを同時製造し,二酸化炭素の固定化や水素エネルギーの低コスト化により,循環型経済の実現やSDGs達成に大きく貢献するものと期待している.

(注)Takaaki Tomai, Yuta Nakayasu, Yusuke Okamura, Shunichi Ishiguro, Naoki Tamura, Shusuke Katahira, Itaru Honma, "Bottom-up synthesis of graphene via hydrothermal cathodic reduction", Carbon, Vol. 158, March 2020, pp. 131-136, doi: 10.1016/j.carbon.2019.11.052; Available online 18 November 2019