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タンパク質の3Dプリンティング ~純粋なタンパク質からなる微小3次元構造体の造形に成功~

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研)は2020年1月7日,同所光量子工学研究センター先端レーザー加工研究チームの杉岡 幸次 チームリーダーとゼリーン・ダニエラ 基礎科学特別研究員の研究チームが,フェムト秒レーザーを用いて,純粋なタンパク質からなる微小3次元構造体を造形する技術を開発したと発表した.本研究は,公益財団法人 天田財団重点研究開発助成A,独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費補助金若手研究 等の助成を受けて行われ,研究成果は米国化学会の学術雑誌ACS Bi-omaterials Science & Engineeringに掲載された(注).

 3Dプリンティングは積層造形法とも呼ばれ,立体物(3次元構造体)の形状を断面毎に形成し,順次積層して造形する手法である.樹脂や金属の立体物を少量多品種生産できる手法として,実用化が進んでいる.ポリマーを100nm程度の極めて高い加工解像度で造形する手法としては,フェムト秒レーザーの多光子吸収を利用した「多光子造形」が研究開発されている.多光子造形はポリマーだけでなく,金属やタンパク質を造形できることが最近示された.タンパク質の多光子造形では,前駆体となるタンパク質分子に反応を促進するための光活性剤を混合したものが用いられている.しかし,光活性剤には毒性を持つものもあり,その光活性剤分子が造形した構造体中に混入する可能性がある.

 本研究チームは,前駆体中のタンパク質濃度を上げ,かつレーザー光の照射強度を高くすることで,光活性剤を使用しない純粋なタンパク質の3Dプリンティング技術を開発した.まずタンパク質の前駆体として,純水を用いてウシ血清アルブミン(BSA)分子を溶解した3mM溶液と,光活性剤MBSの100mM溶液とBSA 1.5mM溶液の混合液,の2種を調整した.2種の前駆体溶液をガラス基板上に滴下した後,スピンコーターで回転させ乾燥し,薄膜状にした.次に,この薄膜状前駆体の内部に,緑色の超短パルス・超高強度フェムト秒レーザー光(波長525nm)を対物レンズで集光し照射した.前駆体のタンパク質分子は緑色の光に対して透明だが,フェムト秒レーザー光の高強度性により,集光点でのみ多光子吸収が起こり,タンパク質分子が励起される.励起されたタンパク質分子同士は反応して,化学的に結合する.レーザー光の集光点を3次元に走査することで,レーザー光の軌道に沿って化学結合は進展していく.レーザー走査終了後に薄膜を純水で洗い流し,微小3次元構造体(20面体格子構造,幅6μm)が得られた.

 構造体への光活性剤分子の混入の有無を調べるために,2種の前駆体と構造体のラマン分光測定を行い,BSAのみからなる前駆体を用いることで,純粋なタンパク質の3次元構造体が造形できることを確認した.また,作製したタンパク質の3次元構造体において,タンパク質分子同士が化学結合していることを,温度条件を変化させた加水分解実験によって確認した.

 本技術は,数多くの違った種類のタンパク質の造形に適用することができる.本研究成果は今後,再生医療などの細胞培養用の足場,バイオセンサー,マイクロアクチュエーターなどへの応用が期待できる,としている.

(注)Daniela Serien, and Koji Sugioka, "Three-dimensional printing of pure proteinaceous micro-structures by femtosecond laser multi-photon crosslinking", ACS Biomaterials Science & Engineering 2020, doi: 10.1021/acsbiomaterials.9b01619; Publication Date: January 7, 2020