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物性・原理

MnTe薄膜が超高速な結晶多形変化を示す事を発見 ~省エネルギーかつ超高速な相変化型メモリ材料として期待~

 東北大学は2020年1月7日,同大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻の森 竣祐氏(博士課程後期1年)と須藤 祐司 教授らの研究グループが,MnTe化合物薄膜が,ジュール加熱やレーザー加熱といった高速加熱による多形変化により,大きな電気的・光学的特性変化(電気抵抗:2桁~3桁変化,光学反射率:~25%変化)を生じる事を見出したことを発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)科研費の助成を受けて遂行され,成果は,英国科学誌Nature Communicationsで公開された(注).

 IoT(Internet of things)やAI(Artificial Intelligence)により進展する新たな社会"Society 5.0"の実現に向けて,情報の収集のためのセンサーや情報蓄積の記憶装置用の電子デバイスの一層の進化が要請されている.それを実現する新しい材料としては,温度,力,磁場,電場,光などの変化に素早く反応し,可逆性があり,且つ記憶装置では不揮発性がある材料が望まれる.そうした材料として相変態を利用した相変化型の材料が不揮発性メモリやセンサー用材料として注目されている.材料自体の変態現象を直に利用できるので,動作原理が単純でありデバイスの微細化が可能である.

 様々な相変態現象の中でも,同じ固相内で特定の原子面のズレだけで結晶構造を変化させる「変位型相変態」と呼ばれる相変態があり,変態に要するエネルギーは小さく,その変態速度は非常に速い(固体中の音速:~1000m/s).代表例としては,鋼,非鉄合金,およびセラミックなど多くの材料において頻繁に観察されるマルテンサイト変態がある.材料の硬化や強靭化をもたらし,形状記憶特性や弾性熱量効果など材料に機能性を付与する事も可能である.もし,大きな物理的特性の変化(例えば,電気,光学,磁気物性変化)を伴った変位型相変態が実現できれば,データストレージ用の不揮発性メモリやセンサーなどの超省エネルギー化および超高速化が期待できる.

 研究グループは,結晶多形化合物であるMnTeに着目し,変位型相変態に伴って大きな電気的および光学的物性変化が得られる事を見出した.MnTe多結晶薄膜を電極で挟み込んだメモリ素子を作製し,5pJ以下で10ns程度の高速ジュール加熱による抵抗スイッチング現象(二桁以上の抵抗変化)を確認するとともに,可逆的な電気抵抗スイッチング現象を実証した.この特性は,現在,注目されているGe-Sb-Te薄膜のアモルファス相/結晶相の相変化に伴う抵抗変化を利用した不揮発性相変化メモリに比較して,動作エネルギーを1/20程度まで低減したことになる.また,MnTe膜の光反射率がレーザー加熱によっても可逆的に変化することも分かった.透過型電子顕微鏡による原子像観察の結果から,上記特性は,NiAs型構造(低電気抵抗,高反射率)からウルツ鉱型構造(高電気抵抗,低反射率)への変位型相変態による多形変化によって生じている事が明らかとなり,また,その変態は熱応力(熱ひずみ)により誘起されることが示唆されている.

 本MnTe結晶多形薄膜は,一般的なスパッタリング技術によって作製可能であり,データストレージ用の不揮発性相変化メモリだけでなく,相変化型のフォトニックメモリやナノディスプレイ等のメモリ層として,また,電気的および光学的なセンサー材料としても大いに期待できるとしている.

(注)Shunsuke Mori, Shogo Hatayama, Yi Shuang, Daisuke Ando, and Yuji Sutou, "Reversible dis-placive transformation in MnTe polymorphic semiconductor", Nature Communications, Vol. 11, Article number: 85 (2020), doi:10.1038/s41467-019-13747-5; Published: 03 January 2020