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小型で軽量な自然冷却型有機熱電モジュールを開発 ~100℃~120℃の低温熱源による電力での無線通信を世界で初めて実証~

 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と同 産業技術総合研究所(産総研)は2020年1月21日,産総研 ナノ材料研究部門ナノ薄膜デバイスグループ 向田 雅一 主任研究員,桐原 和大 主任研究員,衛 慶碩 主任研究員らが,NEDO「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」プロジェクト(2013~2022年度)により,低温熱源に置くだけで他端は自然冷却で無線通信用電源として利用できる有機熱電モジュールを開発したことを発表した.この技術の詳細は44th Internation-al Conference and Expo on Advanced Ceramics and Composites(ICACC 2020)と1月29日~31日に東京国際展示場で開催の国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2020)で発表された(注).

 さまざまな情報をリアルタイムで相互通信するIoTでは無線通信技術が必須となるが,通信だけが無線でも電源が有線であっては意味がないため自立型電源の開発が必要となる.熱を電気に直接変換する熱電発電は,熱源さえあれば自立型電源で充電の必要がないが,これまでの熱電材料は無機材料で,希少元素を用いたものが多く,また製造にコストとエネルギーを要する問題もある.産総研は,原料や製造コストが低く製造時の消費エネルギーの小さい有機熱電材料に着目して,200℃以下の未利用熱の有効利用を目指した.高性能な有機熱電材料の開発(2012年8月31日プレス発表),有機熱電材料の評価技術開発,モジュール化などの利用技術開発を一貫して進めてきた.

 有機熱電材料はp型のみ安定して得られるため,これを直列につなぐユニレグ(uni-leg)型モジュールを作製する.即ち,直列につなぐ前段の有機熱電材料の高温部分と後段の低温部分を金属製の導電部材で電気的につなぐ必要がある.この導電部材が熱伝導性も良いため温度差を作りにくくしていることを発見した.そこで,電気抵抗を増やさずに熱抵抗をどこまで増やせるかに着目して検討を重ねた.

 まず,モジュールの構造は,厚さ50μmの有機熱電材料のPEDOT/PSS(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene)/Poly(styrenesulfonate))膜100枚と厚さ5μmの導電部材のニッケル(Ni)箔99枚を,接合部分を除いて厚さ5μmの絶縁性高分子膜(ポリイミドフィルム)で挟んだ積層型のモジュールを作製して,その特性改善を進めた.ここで,前段と後段を電気的につなぐニッケル箔は漢字の「工」の形をしており,上と下の横棒が重なる有機熱電材料膜の一方の高温側と他方の低温側の電極(Au)に接続している.「工」の縦棒が両膜を電気的に接続する役目を果たす.従って100枚の有機熱電材料膜が直列に接続されることになる.

 ところで,縦棒は熱も流すので,有機熱電材料膜中に温度差を作る妨げとなる.そこで,導電性を維持するために横棒の長さを保った状態で,横棒と縦棒の幅を細くした場合の熱抵抗の増加をシミュレーションにより求め,それぞれに適切な値があることが分かった.さらに,熱源とモジュールの接触抵抗を減らす工夫をし,熱源温度120℃で熱電モジュールに50℃の温度差を作ることで,約60μW/cm2の出力密度が得られた.モジュールの大きさは22×22×5mm3,重さは約5gで,22×5mm2の面を熱源に接触させる.この電力で無線センサーを駆動,スマートフォンに温度・湿度を表示させて,データ転送の有効性を実証した.

(注)Masakazu Mukaida, Kazuhiro Kirihara, and Qingshuo Wei, "Enhanced Power Output in Polymer-based Thermoelectric Devices through Thermal and Electrical Matching", 4th International Conference and Expo on Advanced Ceramics and Composites, Presentation Number: ICACC-S6-018-2020.