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金属並みの熱伝導性を備えたゴム複合材料を開発 ~フレキシブル電子デバイスの放熱シートなど,やわらかな熱マネジメント材料に~

 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と東京大学(東大)は2020年2月17日,産総研 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ タフコンポジット材料プロセスチーム 伯田 幸也ラボチーム長,東大大学院新領域創成科学研究科 寺嶋 和夫教授らが,カーボンナノファイバー(CNF)およびカーボンナノチューブ(CNT)と,環動高分子のポリロタキサンを複合化させて,ゴムのように柔軟で,金属に匹敵する高い熱伝導性を示すゴム複合材料を開発したと発表した.開発の一部は,独立行政法人日本学術振興会の科学研究費助成事業の支援を受け,詳細は,Composites Science and Tech-nology誌に掲載された(注).

 近年,フレキシブル電子デバイス用の熱マネジメント材料として,柔軟なゴム素材と熱伝導性の高いCNFやCNTとの複合材料が研究開発されている.しかし,必要とされる熱伝導率2W/mKを達成するのに,多量のCNTやCNFの添加が必要とされ,複合材料の柔軟性が失われて脆くなる.一般に,繊維状カーボンは凝集性が強く,分散しにくいため,熱伝導のネットワークを複合材料内に形成するのは困難であった.また,大きな繊維状カーボン凝集体とゴム素材との界面が変形時の破壊の起点となり,脆化の要因の一つとなっている.

 産総研・東大の研究グループは,環動高分子(「夢の新材料セルムスーパーポリマの開発」,NanotechJapan Bulletin, Vol.12, No. 6, 2019参照)に着目した.環動高分子は,直鎖高分子(ポリエチレングリコール)と,その上で動く環状分子(シクロデキストリン)とからなる超分子の一種のポリロタキサンを含み,その環状分子を架橋点として他の高分子と結合して形成される.研究グループは,水中プラズマにより表面に水酸基などの官能基を導入して親和性が改善された窒化ホウ素(BN)粒子をポリロタキサンに加えて,しやなかで放熱性に優れたゴム材料を開発した(2018年3月6日 産総研プレス発表).その熱伝導率は2W/mKと比較的高かったが,今回,より高く金属に匹敵する熱伝導率のゴム複合材料の開発に取り組んだ.ゴム複合材料では,ポリロタキサン中に,フィラーとしてサイズの異なる2種類の繊維状カーボン:CNF(太さと長さ:200nmと10~100μm)とCNT(同:10~30nmと0.5~2μm)を分散させた.分散性改善のためCNFとCNT(CNF:CNT重量比9:1)を塩化ナトリウム水溶液に分散し,独自に開発した流通式水中プラズマ改質装置を通して表面改質を行った.CNF/CNT混合物を溶媒(トルエン)中でポリロタキサン,触媒,架橋剤と混合したのち,交流電界処理用容器内で,交流電界をかけながら架橋反応させてゲルを作製した.得られたゲルをオーブンで加熱して溶媒を取り除き,フィルム状の複合材料を得た.

 電子顕微鏡像を観ると,表面改質により,CNF凝集体がほぐれ,加えた電界の方向に配列しており,さらに,大きなCNFに小さなCNTが巻き付き,CNF間をつなぐように分散していた.これにより,複合材料全体にわたる熱伝導のネットワークが形成され,高い熱伝導性が実現したと考えられる.熱伝導率は約20W/mKでTi合金の約10W/mKを超えてBN系より1桁高く,ヤング率がポリ塩化ビニルエラストマー並みに低い(BN系より柔らかい).熱マネジメント材料として実用可能なレベルに到達したと考えている.

(注)T. Goto, T. Ito, K. Mayumi, R. Maeda, Y. Shimizu, K. Hatakeyama, K. Ito, Y. Hakuta, and K. Terashimaa, "Movable cross-linked elastomer with aligned carbon nanotube/nanofiber as high thermally conductive tough flexible composite", Composites Science and Technology, Volume 190, 12 April 2020, 108009, doi: 10.1016/j.compscitech.2020.108009; Available online 18 January 2020.