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がん治療用放射線源による水の発光の可視化に成功 ~がん放射線治療のさらなる安全性の向上に寄与~

 名古屋大学は2020年3月17日,同大学大学院医学系研究科の余語 克紀 助教らの研究グループが,北里大学,東京西徳洲会病院,広島がん高精度放射線治療センター,広島大学との共同研究で,がんの高線量率放射線治療において線源から放出される放射線の可視化に成功し,新たな品質保証ツールを開発したことを発表した.この研究成果は線源動作エラーを未然に発見することで,さらに安全ながん放射線治療に寄与すると期待されるとしている.本研究は,独立行政法人 学術振興会の科学研究費等の支援を受け,成果は,Scientific Reportsオンライン版に掲載された(注).

 20-30歳代女性で発症率が増加している子宮頸がんへ多く適用されている高線量率小線源治療は,副作用が少なく,高い線量を集中的に投与できる優れたがん治療法である.この治療では,米粒大のγ線源をがんへ運び,線源の位置を動かしてはある時間滞留して線量を投与する.その実行は医師の指示した処方線量に基づき治療計画用ソフトウエアが線源を運ぶカテーテルの位置と時間を割り出し,これを治療機に伝えることで行われる.この際に,その位置と時間が適当でないと誤照射事故を起こす可能性がある.そのため,治療前に線源動作のエラーを防ぐ品質保証が必要である.従来は事前に患者体内を撮影した画像を基に線量分布の計算を行い,これを線源の移動に変換していた.今回その煩雑さと所要時間の改善をはかるため,γ線を可視化することで医師の指示した線量が正確に処方できるか確認する品質保証手法を考えた.

 本研究では,目に見えないγ線を可視化するため,人体に組成が近い水が発光するチェレンコフ光(荷電粒子が物質中の光速を超えて運動するときに生じる光)を利用することに着想した.高エネルギーのγ線が水中で電子に衝突して電子をはじき飛ばし(コンプトン散乱),その電子の速度が水中の光速を超えることで発光することを活用するものである.192Ir γ線源をカテーテルによって水槽中に運び,γ線を照射された水からの発光をCCDカメラで撮影する実験を行い,発光画像を確認した.この画像とシミュレ-ション計算結果と比較することで,水中で発生している光が,γ線からのコンプトン散乱電子によって生成されたチェレンコフ光であることが確認され,その光の分布は,治療計画用ソフトウエアを使用してもとめられた線量分布と一致した.また,線源が止まる位置(インターバル)を測定したところ,従来の手法で求めたものと同程度の空間分解能が得られた.水の発光を利用するこの方法は,CCDで得られた一枚の投影画像から線量分布,線源強度,線源位置を同時に測定できるため,高線量率小線源治療の簡便且つ迅速な品質保証法となる.

 この品質保証法により,高線量率小線源治療の事前作業が改善され 線源動作エラーを未然に発見することができ,線治療の安全化にも貢献することが期待される.さらに,放射線よる水の発光は,広くがん放射線治療の品質保証法に適用できる可能性があり,さらなる応用展開が期待されるとしている.

(注)K. Yogo, A. Matsushita, Y. Tatsuno, T. Shimo, S. Hirota, M. Nozawa, S. Ozawa, H. Ishiyama, H. Yasuda, Y. Nagata, and K. Hayakawa, "Imaging Cherenkov emission for quality assurance of high-dose-rate brachytherapy", Scientific Reports Vol. 10, Article number: 3572 (2020), DOI: 10.1038/s41598-020-60519-z; Published: 27 February 2020