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悪性中皮腫を光で破壊! ~新たな近赤外光線免疫療法の応用~

 名古屋大学(名大)と東北大学は2020年4月24日,名大大学院医学系研究科呼吸器内科学博士課程4年(現,一宮市立一宮市民病院呼吸器内科)の西永 侑子氏(筆頭著者),同医学系研究科呼吸器内科学 S-YLC特任助教の佐藤 和秀氏(責任著者,筆頭著者)らと,同大大学院工学研究科教授 馬場 嘉信氏および国立病院機構名古屋医療センター院長 長谷川 好規氏らの研究グループが,米国がんセンター分子治療診断部門 主任研究員 小林 久隆氏,東北大学未来科学技術共同研究センター/東北大学大学院医学系研究科抗体創薬研究分野 教授 加藤 幸成氏らとの共同研究により,前臨床研究として,ポドプラニンを分子標的とする悪性中皮腫に対する近赤外光線免疫療法の開発に成功したことを発表した.本研究は,文部科学省研究大学強化促進事業,同省ナノテクノロジープラットフォーム事業,国立研究開発法人日本医療研究開発機構・先端的バイオ創薬等基盤技術開発事業/創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)等のサポートを受けて実施され,科学誌「Cells」(電子版)に掲載された(注).

 悪性中皮腫は中皮細胞から発生する悪性腫瘍で,アスベスト粉塵吸入での発症例が多く,肺がんに比べて稀であるが,年間死亡数は増加傾向で,切除手術後の5年生存率は10%程度である.切除不能例の治療薬剤についてもまだ有効なものが開発されていない.そこで,効果的な薬剤と治療法の開発が望まれている.

 ポドプラニンは,従来から悪性中皮腫の特異的な診断標的分子と考えられており,加藤 幸成氏らのグループが世界に先駆けて,その抗体NZ-1を開発し,治療に応用する技術開発を進めてきている.また,近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)は小林 久隆氏らが報告した治療法で,がん細胞が発現するタンパク質を特異的に認識する抗体と光感受物質を合成した複合体を標的タンパク質に結合させ,波長690nm付近の近赤外光を照射して標的を破壊する療法である.

 本研究グループはこのNIR-PITとポドプラニン抗体NZ-1を,悪性中皮腫の治療に応用することを試みた.研究目的使用に同意いただいた患者さんの手術検体の腫瘍組織にNZ-1によるポドプラニンの識別可視化実験(免疫染色)を行い,悪性中皮腫におけるポドプラニン陽性率83.3%と8割以上の検体にポドプラニンの発現が見られた.次に,抗ヒトポドプラニン抗体であるNZ-1と水溶性光感受物質であるIRDye 700DX(IR700)との複合体NZ-1-IR700を合成し,これを用い,ヒト悪性胸膜中皮腫がん細胞に対するNIR-PITを実施した.顕微鏡観察により,速やかな細胞の膨張,破裂,細胞死が確認された.また,マウスのがんモデルにおいては,経静脈的に薬剤を投与して,治療の結果,腫瘍の増大抑制が確認され,胸膜播種悪性中皮腫モデルにおいても顕著な腫瘍縮小効果が確認された.

 最近,さらに選択的にがん細胞のポドプラニンを認識することができるがん特異的モノクローナル抗体(CasMab)技術を用いた新世代の抗体が加藤 幸成氏らにより開発されおり,現在,CasMab を NIR-PIT に応用することで,さらに選択性の高い治療を目指しているとのことである.

(注)Y. Nishinaga, K. Sato, H. Yasui, S. Taki, K. Takahashia, M. Shimizu, R. Endo, C. Koike, N. Ku-ramoto, S. Nakamura, T. Fukui, H. Yukawa, Y. Baba, M. K. Kaneko, T. F. Chen-Yoshikawa, H. Koba-yashi, Y. Kato, and Y. Hasegawa, "Targeted Phototherapy for Malignant Pleural Mesothelioma: Near Infrared
Photoimmunotherapy Targeting Podoplanin", Cells, 2020, Vol. 9, No. 4, p. 1019, DOI: 10.3390/cells9041019; Published: 20 April 2020