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ナノ材料と色素分子の融合で人工光合成を実現 ~水と太陽光から水素を製造する光触媒の開発を加速~

 東京工業大学(東工大)は2020年5月27日,東工大 理学院 化学系の前田 和彦准教授らが,酸化物ナノシートと色素分子からなる複合材料が,可視光照射下で水から水素を効率良く生成する光触媒として働き,いわゆる「人工光合成」を実現できることを発見した,と発表した.本研究は,米国ペンシルベニア大学のThomas E. Mallouk教授,国立研究開発法人産業技術総合研究所の佐山 和弘博士ら,同 物質・材料研究機構の木本 浩司博士ら,新潟大学の由井 樹人准教授,東工大の石谷 治教授らとの共同で行われた.また本研究は,独立行叡法人日本学術振興会 科学研究費助成事業,公益信託ENEOS水素基金等の助成を受け,本成果はアメリカ化学会誌Journal of the American Chemical Societyに掲載された(注).

 再生可能エネルギー技術として期待される「人工光合成」では,水を太陽光によって水素と酸素へと分解するのに,植物の光合成における葉緑素に代えて,光触媒を用いる.これには,合成が比較的容易な酸化チタン(TiO2)などの金属酸化物が多く研究されてきたが,バンドギャップが大きいため,太陽光に多く含まれる可視光の利用効率が低い.そこで金属酸化物に色素を複合し,可視光で色素中に生成した電子(e-)を金属酸化物の伝導帯に送り込むことによって水素イオンを水素に変換する(2H++2e-→H2)色素増感に関心が高まった.

 一方,前田准教授らは,酸化物KCa2Nb3O10ナノシートの積層空間に白金(Pt)ナノ粒子を内包したナノ構造体が,紫外光照射下で効率良く働く水分解光触媒となることを見出していた.そこで,類似組成の酸化物HCa2Nb3O10ナノシートにPtナノ粒子を内包させ,これに色素分子としてルテニウム錯体(Ru(II)tris-diimine)を吸着させた水素生成光触媒を作製した.これを,酸化タングステン(WO3)系の酸素生成光触媒と組み合わせたところ,ヨウ素系電子伝達剤(I3-/I-)の存在下において,可視光により,水を水素と酸素に完全分解できることが分かった.さらに,ナノシートにアモルファス状の酸化アルミニウム(a-Al2O3)を付着させて修飾すると,水分解反応が大幅に促進された.これは,Al2O3の存在によって,Ru錯体の電子供給過程が高速化されたことによることが,レーザー分光による反応解析で確認された.この結果,触媒反応において単位時間あたりに1個の色素分子が与える生成物数のターンオーバー頻度は.従来の245倍の1,960h-1にまで向上し,波長420nmの光に対する水分離の外部量子収率は2.4%に達した.

 本研究により,精密設計されたナノ材料を色素増感型光触媒の部材として活用することで,太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換する革新的な機能材料を創出できる可能性が見えてきた,としている.

(注)Takayoshi Oshima, Shunta Nishioka, Yuka Kikuchi, Shota Hirai, Kei-ichi Yanagisawa, Miharu Eguchi, Yugo Miseki, Toshiyuki Yokoi, Tatsuto Yui, Koji Kimoto, Kazuhiro Sayama, Osamu Ishitani, Thomas E. Mallouk, and Kazuhiko Maeda, "An Artificial Z-Scheme Constructed from Dye-Sensitized Metal Oxide Nanosheets for Visible Light-Driven Overall Water Splitting", Journal of the American Chemical Society 2020, 142, 18, 8412-8420; Publication Date: April 13, 2020, doi: 10.1021/jacs.0c02053