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超高屈折率・無反射な新材料のレンズで電磁波を操る ~未来の通信や熱マネジメントに向けて~

 東京農工大学と国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は2020年7月14日,同大学大学院工学研究院先端電気電子部門の鈴木 健仁准教授らの研究チームが,超高屈折率・無反射な新材料によるテラヘルツ(THz = 1012 Hz)メタレンズの設計指針を構築したと発表した.本研究は,JST戦略的創造研究推進事業さきがけ他の支援により実施され,成果は米国光学会発行のOptics Expressに掲載された(注).

 THz帯の電磁波の周波数は,第5世代(5G)移動通信システムで用いるミリ波よりも高く,可視光よりは低い.通信システムの高度化には高周波が有利なので,THz波は6G(Beyond 5G)通信への応用が期待されている.また,高温の熱源から排出される熱放射(赤外域の電磁波)を再利用した熱マネジメントが待ち望まれている.これらのTHz帯や赤外域の電磁波の制御には,ドーム状の厚みを持ったレンズが現在は用いられている.しかしながら,THz帯光源への集積化や製鋼スラブなどから排出される熱放射の制御に向けて,光源への集積化や既存の構造物・空間に後から導入するため,平面で薄型なレンズが求められていた.

 この課題に対し本研究チームは,超高屈折率・無反射な人工構造材料のメタサーフェスを応用した薄型THzメタレンズの設計指針を1THz以上(波長300μm以下)の電磁波領域で構築した.メタサーフェスとは,原子より大きいが電磁波の波長に対しては微小なサイズの構造体(メタアトム)を原子や分子に見立てて配列することで,自然界には存在しない電磁的性質を実現できるスーパー(超)材料表面を意味する.今回のメタレンズは,誘電体(ポリマー樹脂)基板の表裏に対称に配置したカット金属(Ag)ワイヤーによって作られた波長より小さな構造であるメタアトムで構成され,材料の誘電性と磁性を人工的に制御している.また,周波数が高くなると金属の導電率の実部と虚部の両方を考慮する必要があり,カット金属ワイヤーの導電率は金属の自由電子の運動を運動方程式でモデル化したドルーデモデルによる値を用いた.

 この人工的複合材料でできたメタレンズの特徴は,非常に薄いことである.一例として,339ペアのメタアトム(幅6μm,周期12μm,長さ31μm,ペア間距離2μm)で構成される,厚さ2.28μm(波長の1/50)の超薄型メタレンズ(レンズ半径256μm,焦点距離1.0mm)を設計した.メタアトムの配列は,レンズ中心部程密にしてある.このメタサーフェスは,3.0THzで15.0の非常に高い屈折率と15.5%の低い反射率と45.8%の透過率を示し,高屈折率の自然発生誘電体材料のフレネル反射を回避できる.連続発振光源からの+/-45°の広がりがある3THz電磁波(球面波)を,この超薄型メタレンズで+/-5°の狭角度範囲に平行ビーム(平面波)化し,指向性を大幅に改善することで,パワー密度は4.6倍(6.6dB)に増大すると見積もられた.

 今後は,超高屈折率・無反射なメタサーフェスによるメタレンズをTHz帯光源に集積化することで,6G(Beyond 5G)以降も見据えた無線通信でのビームフォーミング技術に展開させる.さらに,本設計指針を数10THz以上の赤外域へ適用することで,製鋼スラブなどから排出される熱放射を特定方向に集中させるなど熱マネジメントへの応用が期待できる,としている.

(注)Takehito Suzuki, Kota Endo, and Satoshi Kondoh, "Terahertz metasurface ultra-thin collimator for power enhancement", Optics Express, Vol. 28, Issue 15, pp. 22165-22178 (2020), doi:  10.1364/OE.392814; Published: July 13, 2020