ナノテク情報

ナノテク・材料

史上最薄の高分子製ナノサイズシート ~厚み1分子のシートを多孔性金属錯体の鋳型で作る~

 東京大学は2020年7月17日,同大学大学院新領域創成科学研究科の植村教授らが,分子でつくったナノサイズの空間を鋳型として使うことで,極限的に薄い高分子シートを正確かつ大量に合成する手法を開発した,と発表した.本研究は,文部科学省科学研究費補助金新学術領域「配位アシンメトリー」の支援を受けて行われ,成果はNature Communications誌のオンライン版で公開された(注).

 高分子のシート(フィルム)はさまざまな製品に利用され,薄膜化が高性能化・低コスト化への重要な技術課題のひとつとされている.しかし,一般的な塗布法や延伸法による薄膜化には限界があり,これまで,分子レベルにまで薄膜化された高分子シートを合理的な手法で,しかも大量に作成する技術は開発されていなかった.

 本研究で,研究グループは,ナノサイズの層状空間を有する多孔性金属錯体(pillared-layer MOF)を鋳型に用い,その内部でビニルモノマーを重合し,極限まで薄膜化した高分子シートを作成することを試みた.モノマーのサイズに近い約0.8nmの隙間を持つMOF([Ni (Hbtc)(bpy)]n)を作り,その隙間に,ビニルモノマーとして約0.7nmの大きさ(厚さ)のスチレンモノマーを二次元的に閉じ込めてラジカル架橋重合が行われた.MOFを塩酸で溶解除去して得られた1分子厚のポリスチレンシートは,原子間力顕微鏡(AFM)による観察で,通常の高分子のようにモノマーが連なった鎖状構造を持たず,分子レベルで平面的に広がった二次元架橋構造であることが確認された.静的光散乱法(SLS)により測定した分子量は約30万,動的光散乱法(DLS)で測定した大きさ(広がり)は約100nmであるが,一般的な三次元的に架橋したポリスチレンが溶剤に不溶であるのとは異なり,溶剤(クロロホルム)に均一溶解した.さらに,この二次元シートのガラス転移温度(Tg)は95℃で,一般的なポリスチレンのTgより5℃以上低いことや,粘弾性が極めて低く柔軟であることが分かった.これらの興味深い特性は,二次元シートでは高分子鎖の絡み合いが生じないことにより発現する.

 開発されたMOFを鋳型とする二次元高分子の合成手法は,大量製造にも対応し,モノマーの種類を選ばず,MOFもそれを構成する金属と有機物の自在な設計が可能で,これを組合わせてさまざまな高分子薄層シートの合成が可能である.ポリメチルメタクリレートの単分子シートや,MOFの隙間を1.2nmに調製して厚みを増したシートも作成されている.

 研究グループでは,今後,一般的な一次元や三次元構造とは異なる,特有の二次元構造に由来する高分子シートの特殊な性質を利用した高分子物性制御用添加剤の開発や,さらには,より広範な分野に適用可能な高分子素材として技術展開を図りたいとしている.

(注)Nobuhiko Hosono, Shuto Mochizuki, Yuki Hayashi, and Takashi Uemura, "Unimolecularly thick monosheets of vinyl polymers fabricated in metal-organic frameworks", Nature Communications, Vol.11, Article number: 3573 (2020), doi: 10.1038/s41467-020-17392-1; Published: 17 July 2020