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三次元ナノカーボン材料の新しい合成法 ~触媒反応で炭素をつなぎ,曲がった八員環構造をつくる~

 名古屋大学は2020年7月28日,同大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 伊丹 健一郎 教授,村上 慧 特任准教授,松原 聡志 大学院生らが,ベンゼン環(六員環)をつないで八員環構造をつくる新触媒反応を開発し,三次元ナノカーボン分子の精密かつ簡便な合成法を確立したことを発表した.本研究成果は,Nature Catalysisのオンライン版で公開された(注).なお,本研究は,独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費補助金,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ERATO「伊丹分子ナノカーボンプロジェクト」などの支援のもとで行われた.

 ナノカーボンはこれまで,フラーレン,カーボンナノチューブ,グラフェンなどが,優れた機能分子として広く注目を集め,研究開発が行われてきた.このほかに,このいずれにも分類されない未踏のナノカーボンとして八員環を含む周期性三次元ナノカーボンがある.1991年にMackayらが理論提唱して以来,様々な構造が提案されて,ダイヤモンドに勝る機械的強度や自発的な磁性の発現など優れた物性を持つことが予測されているが,これらの分子を合成することは極めて困難で,これまでの多くの挑戦も成功していない.八員環構造の構築自体が難しく,効率的に複数の八員環をつくることは困難と考えられてきた.

 この研究グループは,この問題への対処として,先ず周期性三次元ナノカーボンの部分構造である多環芳香族炭化水素(PAHs)を簡便に八員環でつなぐことができるようになれば,三次元ナノカーボン合成への道が見えてくるとの考えに従って,PAHsをつなぎ合わせて八員環を作ることに挑戦した.3個の六員環で形成するPAHsのベイ領域(4炭素が凹状に並ぶユニット)に塩素原子を有する分子を基質として用い,パラジウム触媒を用いて二量化反応(二つの同種分子が結合する)を行い,二つの分子のベイ領域が向き合い結合して8個の炭素からなる八員環を構築することができた.合成した分子は八員環に由来してねじれ構造(三次元構造)を有している.また,上記の基質となる分子とビフェニレンと呼ばれる分子(2個の六員環をそれぞれの2個の炭素間で接続した構造で側面にベイ領域を形成する)のそれぞれの有するベイ領域を,パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応により結合して八員環構築に成功した.これらの触媒反応の一般性は高く,様々な三次元分子を効率的に構築することができる.

 具体例として,トリフェニレン(1個の六員環の周囲に3個の六員環が結合した3角形状の分子で,三角形の各辺にベイ領域がある)の3つのベイ領域にそれぞれ塩素原子が接続されているトリクロロトリフェニレンに対して3個のビフェニレンを作用させることにより,八員環を3つ含む新しい三次元ナノカーボンを構築することができた.X線結晶構造解析により八員環に由来した高度に湾曲したナノカーボン構造を確認した.この分子は周期性三次元ナノカーボンの部分構造であり,複数の八員環を一度に構築できた最初の例であり,周期三次元ナノカーボン開発に先鞭をつけることができた.このナノカーボン材料は,高高度材料や燃料電池材料など,非常に幅広い応用が期待されるとしている.

(注)Satoshi Matsubara, Yoshito Koga, Yasutomo Segawa, Kei Murakami, and Kenichiro Itami, "Cre-ation of negatively curved polyaromatics enabled by annulative coupling that forms an eight-membered ring", Nature Catalysis (2020), doi: 10.1038/s41929-020-0487-0; Published: 27 July 2020