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ゲート型吸着剤を活用した二酸化炭素の高効率分離システム ~二酸化炭素の分離回収技術の開発に貢献~

 信州大学,京都大学,日本製鉄株式会社,公益財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI)は2020年8月4日,信州大学先鋭領域融合研究群 先鋭材料研究所の田中 秀樹教授(特定雇用),京都大学大学院 工学研究科の宮原 稔教授らの研究グループが,従来の吸着剤とは異なる新材料(ゲート型吸着剤)を活用した二酸化炭素(CO2)の高効率分離システムを提案した,と発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)特別研究員奨励費,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進授事業(CREST)などの支援を受けて行われ,成果はNature Communications誌に掲載された(注).

 CO2の排出削減は世界的な課題であり,その一環として,CO2排出源におけるCO2分離回収技術が注目されている.混合ガスからのCO2分離回収には,細孔内に分子を捕捉し吸着分離する吸着法が使われるが,一般に,CO2分離性能の高い吸着剤は,吸着したCO2を脱着・回収するのに要するエネルギーが大きいという問題がある.また,気体分子の吸着は発熱過程であり,吸着が進むと吸着剤の温度が上昇して吸着効率が低下するという問題もある.CO2の吸着能が高く,脱離しやすいという相矛盾する特性を持った吸着剤を求めて,研究グループはゲート型吸着剤ELM-11に着目した.

 ELM-11は,雰囲気のCO2濃度(圧力)に応じて細孔が開閉する柔らかい構造を持つ,金属有機構造体(MOF)系の吸着剤である.雰囲気のCO2濃度が低い時は細孔が閉じてCO2を吸着しないが,CO2濃度が閾値を超えると,ゲートが開くように膨張して細孔が開きCO2を内部に取り込む.CO2濃度が閾値より低下すると細孔は収縮してCO2を放出する.吸着熱はELM-11の細孔の変形に消費され,吸着剤の温度上昇は少ない.ELM-11で高速圧力スウィング吸着分離システムを実現するには,ELM-11の膨張とそれに伴うCO2吸着が十分に高速である必要がある.そこで,大型放射光施設SPring-8のビームラインを利用してCO2導入に伴うELM-11の構造変形(膨張)を追跡した.0.05秒間隔で粉末X線回折測定が行われ,ELM-11の膨張は,温度25℃,CO2圧力250kPaの条件下、1.5秒で完結することが分かり,CO2の高速度吸着分離システムに十分使用可能との結果が得られた.天然のメタンに含まれるCO2の分離を想定した実験では,ELM-11の選択性は従来型の硬質な吸着剤(HKUST-1)に比べ9.7倍,吸着剤単位重量当たりのCO2回収量は2.1倍を示した.ELM-11の高いCO2回収量は吸着熱の抑制効果によるものである.更に,ELM-11単独の吸着システムでは閾値以下のCO2を取り逃すため,HKUST-1と組み合わせて小型化,高効率化したシステムが提案されている.

 研究グループは,ゲート型吸着剤を用いた省エネルギーの高速度吸着分離システムが,石油化学工業のガス分離や火力発電所のCO2処理などに使われることを期待している.

(注)S. Hiraide, Y. Sakanaka, H. Kajiro, S. Kawaguchi, M. T. Miyahara, and H. Tanaka, "High-throughput gas separation by flexible metal-organic frameworks with fast gating and thermal management capabilities", Nature Communications, Vol. 11, Article number: 3867 (2020), DOI: 10.1038/s41467-020-17625-3; Published: 03 August 2020