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歯や骨の主成分で揮発性有機化合物(VOC)を分解 ~貴金属不使用のセラミックス触媒による環境浄化技術の可能性~

 名古屋工業大は2020年8月21日,同大学大学院工学研究科 先進セラミックス研究センターの白井 孝准教授,辛韵子特任助教らの研究グループが,歯や骨の主成分である水酸アパタイト(HAp)を用い,高効率で揮発性有機化合物(VOC)を分解できるセラミックス触媒材料の開発に成功した,と発表した.本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の支援を受けて行われ,成果はCatalysis Science & Technology誌に掲載された(注).

 HApはアパタイト構造を有するリン酸カルシウム(Ca10(PO4)6(OH)2)であり,生体親和性が高く生体用途に用いられることが多い材料であるが,イオン交換性能や高い吸着性も有しており,研究グループは,HApのVOC分解触媒能を見出している.本研究では,HApの組成(カルシウム/リン比率:Ca/P比)とVOP分解触媒能との関係を調べ,VOC分解のメカニズムが明かにされた.この結果,完全分解に近い98%の分解率を達成した.

 HApは,加熱下で,表面のOHが脱離して熱励起される格子欠陥に捕捉された電子により発生する活性酸化ラジカルの酸化力でVOC分解触媒として作用する.ラジカルの発生には格子欠陥が必要であり,VOC分解触媒能はHApの結晶性やCa/P比に影響を受けると考えられる.HApの化学量論的組成でのCa/P比は1.67であるが,化学量論から外れたCa10-x((PO4)6-x(HPO4)x(OH)2-xで表されるCa/P比の異なる組成も可能である.研究グループは,Ca/P比を1.70,1.67,1.57,1.37と変え,0℃から400℃に昇温してVOC分解率の測定を行った.何れもCa/P比1.67の場合が最も良好で,VOCのモデル物質とした酢酸エチル,イソプロパノール,アセトンの分解率はそれぞれ98.04%,95.45%,78.52%に達した.分解中の生成物をガスクロマトグラフィーと質量分析計で解析すると,酢酸エチルの分解過程でエタノール,アセトアルデヒド,エタンが検出された.このエタノールとアセトアルデヒドは,ラジカルによるエチルの分解で生成される.Ca/P比の違いによりHAp表面に存在する酸塩基の割合が異なり,分解生成物の割合にも違いが生じる.異なるCa/P比のHApを用いたVOCの分解特性と,HApの粒子形態,結晶性,表面吸着性,酸・塩基特性,ラジカル発生挙動を評価し,HApによるVOC分解メカニズムが次のように解明された.酢酸エステルはラジカル的にアルデヒドとアルコールに分解され,アルコールはさらに塩基性サイトで酸化されてアルデヒドになるか,酸性サイトで脱水素化により二重結合を生成する.アルデヒドはラジカル的に酸化されて二酸化炭素と水に分解されるが,二重結合を生成すると分解されずに残渣となる.

 以上のようにありふれたセラミックス材料であるHApを触媒にして,貴金属を使用することなくVOCを分解できることが分かった.貴金属触媒を使った燃焼装置に代わり得るもので,これまでVOC除去処理装置の導入が遅れていた中小規模施設でのVOC削減に役立つものと期待される.研究グループは,さらに実用化に向けて製品開発を進めたいという.

(注)Yunzi Xin, Yuri Ando, Sohei Nakagawa, Harumitsu Nishikawa and Takashi Shirai, "New possibility of hydroxyapatites as noble- metal-free catalysts towards complete decomposition of volatile organic compounds", Catalysis Science & Technology, Vol.10,5453-5494(2020), DOI: 10.1039/d0cy00787k; First published online 30 May 2020(冊子版発行:2020年8月21日)