ナノテク情報

ナノテク・材料

プロペラ型レアアース分子から強らせん発光を実現 ~高集積型の円偏光発光体を新規開発~

 北海道大学は2020年8月26日,同大学創成研究機構 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD),同大学院 工学研究院の北川 裕一特任講師,長谷川 靖哉教授らが,強い円偏光発光を示すプロペラ型レアアース分子の開発に成功した,と発表した.本研究は,文部科学省科学研究費補助金「基盤研究B」,「新学術領域研究(非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学)」,「文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」などの支援を受けて行われ,成果はCommunications Chemistry誌に掲載された(注).

 人工的な発光光源は光情報通信,データ保存,ディスプレイなどに広く用いられており,それらには光源の持つ偏光特性が利用されているものも多い.本研究において,研究グループは,これまでにない実用的な発光強度を持つ円偏光発光材料を開発した.円偏光(CPL)を発光する材料には,キラル構造を有するタンパク質が知られているが,従来の発光強度は低く実用的なものではなかった.開発された材料は,キラルな構造を持つランタニドガラスである.このランタニドガラスは,レアアースのユーロピウムイオン(Eu(Ⅲ))に,左旋性もしくは右旋性の3-(trifluoroacetyl) camphor (±tfc)と,tris(2,6-dimethoxy phenyl) phosphineoxide (tmpo)を配位したものである.tfcはキラルな分子でプロペラ形状をしている.tmpoはメトキシ基を6個持つバルキーな分子で,Eu(Ⅲ)の配位結合を弱めることでCPLの発光強度を高め,円偏光回転強度(gCPL)と量子収率(Φtot)を向上させる.さらに,tmpoには成膜時にガラス質膜の形成を促進して透明材料が得られるという効果もある.

 研究者らは,Euのtfc配位化合物Eu(tfc)3(H2O)2とtmpoをメチレンクロライド(CH2Cl2)に溶解し,石英ガラスに塗布して無色透明なガラス質の皮膜を得た.このキラルな発光ガラスに波長365nmの紫外線を照射すると赤色に発光し,スペクトルには,磁気双極子遷移による波長584nmと594nmの弱い二つのピークと,電気双極子遷移による波長612nmの強いピークが見られた.測定されたgCPLは1.2で,発光性タンパク質の10倍,また,Φtotは13%で,従来のキラルレアアース発光材料の10倍以上に達する.一枚の基板に二つの図形をそれぞれEu(-tfc)-tmpoとEu(+tfc)-tmpoで描き,紫外線を照射して左旋性の材料で描かれた図形と,右旋性の材料で描かれた図形を見分ける実験が行われた.発光をλ/4波長板と偏光板を通して観察すると,λ/4波長板の回転角度により両方の図形,もしくは一方の図形のみを選別して検出できることが確認された.

 本研究で開発された材料は,プロペラ型分子の効果により柔軟性があり,高密度の集積が可能で透明な膜が得られ,次世代ディスプレイやセキュリティインクだけでなく,円偏光情報を駆使する光情報通信への展開も期待されるという.研究グループは,今後,キラルレアアース分子の機能を高め,実用化を目指したいとしている.

(注)Yuichi Kitagawa, Satoshi Wada, M. D. Jahidul Islam, Kenichiro Saita, Masayuki Gon, Koji Fushimi, Kazuo Tanaka, Satoshi Maeda, and Yasuchika Hasegawa, "Chiral lanthanide lumino-glass for a circularly polarized light security device", Communications Chemistry, Vol. 3, Article number: 119 (2020), DOI: 10.1038/s42004-020-00366-1; Published: 25 August 2020