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環境に優しい手法でSiC半導体の性能倍増に成功

 京都大学は2020年9月8日,同大学大学院工学研究科の木本 恒暢教授らのグループが,省エネの切り札と言われるSiC(シリコンカーバイド)半導体で20年間,問題になっていた欠陥(半導体の不完全性)を環境に優しい手法で大幅に低減し,SiCトランジスタ性能の2倍の向上に成功したと発表した.本成果は,第81回応用物理学会秋季学術講演会で発表された(注).本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERAプログラム)の助成を受けて行われた.

 社会が消費するエネルギーの中で電気エネルギーの占める割合は急増している.AI・ロボティックス活用の広がり,5G通信など情報通信の高度普及,オール電化住宅・電気自動車(ハイブリッド自動車,燃料電池自動車を含む)の台頭,鉄道車両など,社会全体の電力消費は今後ますます増加する.従って電力の有効利用による消費電力の節減が極力望まれる.電力消費の中で,電気エネルギーの変換(直・交流変換:インバータ・コンバータ,周波数変換,レギュレータ等)の占める割合が大きい.これら装置で使われるのが半導体パワーデバイスである.半導体パワーデバイスには主にSi(シリコン)が使われてきたが,大電流,高耐圧,高周波特性,低損失化等において理論限界に達しつつあり,Siに代わる新材料としてSiCの開発競争が世界中で行われている.京都大学はSiC半導体のパイオニアとして知られ,SiCの結晶成長,欠陥低減,物性解明から新構造デバイスの提案と原理実証などの研究に一貫して取り組み,当該分野の学術研究を牽引してきた.1995年頃から国内外の民間企業もSiCパワー半導体の研究開発に本格的に着手し,2001年にSiCを用いたダイオード,2010年にはSiCトランジスタの量産が開始され,様々な機器への搭載が始まっており顕著な省エネ効果が実証されている.

 しかしながら酸化膜とSiCの境界部分(界面)に極めて多くの欠陥が存在することがSiCトランジスタの特性や信頼性を制限し,SiC本来の性能を発揮できない状況が20年以上続いていた(既にSiデバイスより約50倍高性能だが,本来なら500倍の性能が得られるはず).また,現在はこの界面欠陥を低減するために猛毒ガスの一酸化窒素(NO)を使用しており,そのガスの調達,排ガス処理,安全設備の維持などに多大な費用がかかっている.本研究は,独自のアプローチによって,このSiCの問題を解決したものである.

 SiCによるMOSFET(金属-酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を作製するに際し,SiCを熱酸化すると,表面にSi MOSFETの場合と同様容易に酸化膜(SiO2)が形成されることをメリットと考え,これを利用した製造が行われてきた.しかし,SiCと熱酸化でできたSiO2の接合界面にはSiの場合の100倍以上の欠陥が存在し,SiC MOSFETの性能を大きく制限していることが判明した.そこで,木本教授らは,①製造工程でSiC表面にできるSiO2を水素エッチングで除去し,②次に熱酸化ではなく堆積法でSiO2膜を形成し,③その後従来手法の猛毒ガスのNOではなく,窒素ガスにより表面窒化を行うことでSiC界面の欠陥が大幅減少することを見つけた.本研究結果を従来のベスト(NO処理後)データと比較すると,界面欠陥密度が1/5に減少し,MOSFETのチャネル移動度が2倍以上の85cm2/Vsまで増加した.

 本成果により,SiCパワーデバイスは,省エネルギー化,低コスト化(チップ面積縮小),信頼性向上に加えて,環境に優しい製法が確立できたので,市場拡大の加速が期待される.

(注)立木 馨大,金子 光顕,小林 拓真,木本 恒暢,「酸化過程排除プロセスによる高品質 4H-SiC/SiO2界面の形成」,第81回応用物理学会秋季学術講演会 セッション:15.7 結晶評価,不純物・結晶欠陥;講演番号10p-Z23-13(2020年9月11日)