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高電圧処理不要で高い性能を示す圧電体膜の低温作製に成功 ~高性能の圧力・加速度センサや振動発電の実現に期待~

 東京工業大学(東工大),上智大学,東北大学及び大阪府立大学は2020年10月7日,東工大 物質理工学院 材料系の舟窪 浩教授ら,4大学の共同研究グループが,毒性元素の鉛を含まない圧電体であるニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO3)の膜を,水熱法により300℃以下の低温で作製することに成功したことを発表した.この研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業A-STEPの一環として行われ,成果はApplied Physics Letters誌に掲載された(注).

 圧電体は,圧力や加速度等のセンサや,身の回りにある振動で発電するエナジーハーベスタ(振動発電機)として広く応用され,実用化に向けた開発も進められている.従来の圧電体では,製造過程の仕上げに分極を揃えるために絶縁体に高電圧を印加する「分極処理」が不可欠であった.しかしこの際に電気的な破壊(絶縁破壊)が起こることが指摘されており,その数は圧電体が大面積になるほど増加するので,発電応用で特に問題となる.また振動発電等では,圧電体が大きくたわむこととある程度の膜厚があることが,出力電圧を大きくし,整流時の損失を低減するために必要である.金属板のようなしなやかな基材上に膜形状で作製することが有利とされている.しかし通常の膜作製法は,600℃以上の高温のプロセスを必要とするため,膜作製後の冷却過程での膜と基材の縮み方の違いから,膜が割れるという大きな問題があった.

 本研究では,圧電体の1つであるニオブ酸カリウムナトリウム((K0.88Na0.12)NbO3)の膜を,高圧鍋(圧力~3.2MPa)を用いる水熱法により,従来の作製温度(600℃以上)よりも低い,240℃でチタン酸ストロンチウム基板((100)cSrRuO3//(100)SrTiO3)上に作製することに成功した.この膜は,作製した段階ですでに分極が揃っているため,分極処理が不要であり,絶縁破壊の問題がないので,大面積化が容易である.また,作製温度が低いため,膜厚を最大で22μmにしても膜が割れる現象が観察されなかった.

 また得られた膜では,圧電定数(e31,f)が,~-5.0C/m2と従来製法の(K,Na)NbO3とほぼ同じ値であり,従来とは異なりその値は膜を厚くしても最大22μmまで保たれた.また,比誘電率が低い特徴があり,高い圧電特性と相まってセンサ性能定数(31)は,0.073Vm/Nという高い値を示し,窒化物材料では世界最高値であるSc置換窒化アルミニウム(Al0.45Sc0.55N)の値に匹敵する.さらに,Al0.45Sc0.55Nは誘電率が低過ぎてセンサで使用する場合には,ノイズレベルが高く,センサ回路の設計が難しいのに対し,今回作製した (K,Na)NbO3はAl0.45Sc0.55Nの10倍程度の誘電率を持つため,そうした問題はほとんどない.本研究では,優れた圧電特性と世界最高値に匹敵するセンサ性能定数を有した圧電体膜の作製に成功した.この膜は,大面積で複雑な形状での作製も可能であるので,自立型センサとしての応用が大いに期待できる.

(注)A. Tateyama, Y. Ito, Y. Nakamura, T. Shimizu, Y. Orino, M. Kurosawa, H. Uchida, T. Shiraishi, T. Kiguchi, T. J. Konno, T. Yoshimura, and H. Funakubo, "Good piezoelectricity of self-polarized thick epi-taxial (K,Na)NbO3 films grown below the Curie temperature (240°C) using a hydrothermal method", Applied Physics Letters Vol. 117, p. 142903 (2020); doi: 10.1063/5.0017990; Published Online: 06 October 2020