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光アンテナ効果で光の強度を2000倍に増強する酸化チタンフィルム ~太陽電池,抗ウィルス,水素製造の高効率化へ~

 広島大学は2020年10月13日,同大学理学研究科の大学院生 坂本 全教氏(博士課程後期終了)らと,同大学 自然科学研究支援開発センターの齋藤 健一教授の研究グループが,酸化チタン(TiO2)の多孔質フィルムを使い,光の巨大な増強効果を実現した,と発表した.本研究は,内閣府の最先端・次世代研究開発支援プログラム,独立行政法人日本学術振興会の科学研究費補助金などの支援を受けて行われ,成果はThe Journal of Physical Chemistry Letters誌のオンライン版に掲載された(注).

 TiO2は白色顔料として身の回りで広く使われ,光触媒作用による水からの水素生成や,ペロブスカイト太陽電池の変換効率向上などにも期待される優れた半導体材料である.TiO2は光触媒作用ばかりでなく,光を集めるアンテナとしても作用し,光触媒効果の向上や色素の蛍光発色増強などの効果が知られている.研究グループは,以前の研究で,TiO2で作ったフィルムを使用した光アンテナで,色素の蛍光発色強度を500倍に高めることに成功している.本研究では,TiO2光アンテナの作成方法を改良して光増強効果のさらなる大幅な向上が実現された.

 試作された光アンテナは,TiO2ナノ粒子からなる粉末を加圧して得た多孔性のフィルムである.常温で2MPa(約20kg/cm2)程度の圧力でTiO2の粉末を圧縮成形してフィルム状にするだけであるが,良好な結果を得るには,フィルムにおけるナノ粒子間の距離(ナノギャップ)が重要である.ナノギャップに影響を与える要因はTiO2粒子サイズと成形時の圧力であり,実験と3次元ナノ空間での電磁場シミュレーション(FDTD法)から粒子サイズは300から500nm,ナノギャップは5から10nmで良好な光増強効果が得られることが分かった.成形圧力が高いほどフィルムの密度は上がりナノギャップは小さくなる.実験では,2MPa程度の印加圧力で最も強い光増強度が得られた.光増強の評価は,TiO2フィルムと染料溶液を接触させて光を照射したときの蛍光強度と,TiO2フィルムを使用しないときの蛍光強度との比較で行われる.TiO2フィルムと接触した状態における染料の発光は,TiO2フィルムと接触しない条件に比べ,波長650から850nmの範囲で3桁以上(約2000倍)増強された.この光増強効果は,一般に光増強に使われる同サイズの金や銀ナノ粒子の増強効果より大きいという.本研究のTiO2フィルムは,粉末を圧縮成形するだけの簡単な製法で作られ,粉末状態で使用する場合に比べ光増強度のバラツキが少なく効果も大きい.通常,ナノギャップの制御には電子線リソグラフィーのような精密加工が必要であるが,それに比べ本方法はシンプルで20mm2の大面積を高い再現性(標準偏差~4%,従来の1/5以下)で作成できる.

 本技術は,TiO2を使う空気浄化,防汚,水素製造や,太陽電池などの効率向上に役立ち,さらに今注目されている新型コロナウィルス不活性化にも有効と期待される.研究グループでは,これまでのエネルギー分野ばかりでなく,安心した生活を作る分野にも本技術で挑戦してゆきたいという.

(注)Kaito Hanatani, Kumi Yoshihara, Masanori Sakamoto, and Ken-ichi Saitow, "Nanogap-Rich TiO2 Film for 2000-Fold Field Enhancement with High Reproducibility", The Journal of Physical Chemistry Letters, 2020, Vol. 11, No. 20, pp. 8799-8809, DOI: 10.1021/acs.jpclett.0c02286; Publication Date: September 9, 2020