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世界最高速の帯域100GHzを超える直接変調レーザを開発 ~SiC基板上メンブレンレーザにより低消費電力で実現~

 日本電信電話株式会社(NTT)と東京工業大学は2020年10月21日,NTTと同大学科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の小山 二三夫教授との共同研究により,高熱伝導率を持つSiC基板上にインジウムリン(InP)系化合物半導体を用いたメンブレンレーザを開発し,直接変調レーザとして世界で初めて3dB帯域が100GHzを超え,毎秒256ギガビット(Gbps)の信号を2km伝送できることを確認したと発表した.本成果は,英国の科学誌Nature Photonicsのオンライン速報版に掲載された(注).

 データセンタでは,サーバ間を接続する光インターコネクションの大容量化と低消費電力化を満たすことが要求される.現在,データセンタでは,低消費電力・低コストという特長から直接変調の半導体レーザが多く使用されているが,レーザに注入した電流に比例して光出力が変化する強度変調を利用しているため,緩和振動周波数で変調速度が制限され,3dB帯域は30GHz程度が限界とされていた.

 直接変調レーザの変調限界を超える課題に対して,本共同研究チームは2つの技術を開発した.1つ目は,SiC基板上の“メンブレンレーザ”である.メンブレンレーザは,低屈折率材料(SiO2)上に作製した300nm程度の膜厚(従来型のレーザの1/10程度)のレーザで,InP層の中にレーザ活性層を埋め込み,基板に水平方向にpn接合を形成した横注入型ダイオード構造の薄膜レーザである.メンブレンレーザは活性層の光閉じ込め係数が大きいので,低消費電力な直接変調レーザが実現できる.活性層での発熱を抑えるために,従来のSiO2基板に代えて,SiO2より約500倍高い熱伝導率をもつSiC基板上に40nm厚のSiO2を挟んでInP系メンブレンレーザ(活性層長50μm)を作製した.100mWの発熱源に対する活性層の温度上昇は131℃から17℃に削減され,大電流を流して緩和振動数を高められる.実際に作製した素子では,世界最高の緩和振動周波数42GHzと3dB帯域60GHzが得られた.

 2つ目の技術は,出力導波路端面からの光フィードバックを用いた“フォトン-フォトン共鳴”である.出力導波路長を135μmにすることで,レーザ発振モード(1286.2nm)と隣接する出力導波路共振器縦モードとの差(~95GHz)を強度変調時に発生する側帯波の周波数に一致させ,その特定の変調周波数付近での強度変調を増強させる.フォトン-フォトン共鳴が95GHz付近で起こるような素子を試作した結果,3dB帯域で108GHzを得た.この直接変調レーザを用いて,毎秒256GbpsのPAM(Pulse Amplitude Modulation)4信号を生成し,2km伝送に成功した.

 本成果により,伝送容量が1,000Gbpsを超える次世代イーサネットの規格に,4つあるいは8つのアレイで対応可能な送信機の実現が期待される.低消費電力化が同時に実現できるので,今後懸念されるデータ量の増加によるデータセンタの消費電力の増加を削減することも期待される.

(注)Suguru Yamaoka, Nikolaos-Panteleimon Diamantopoulos, Hidetaka Nishi, Ryo Nakao, Takuro Fujii, Koji Takeda, Tatsurou Hiraki, Takuma Tsurugaya, Shigeru Kanazawa, Hiromasa Tanobe, Takaaki Kakitsuka, Tai Tsuchizawa, Fumio Koyama, and Shinji Matsuo, "Directly modulated membrane lasers with 108 GHz bandwidth on a high-thermal-conductivity silicon carbide substrate", Nature Photonics (2020), DOI: 10.1038/s41566-020-00700-y; Published: 19 October 2020