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高速リチウムイオン伝導性分子結晶電解質を開発し全固体電池を作製 ~電解質の融解・凝固を利用し全固体電池開発に新たな方向性~

 静岡大学と東京工業大学は2020年10月29日,静岡大学理学部化学科の守谷 誠講師,東京工業大学物質理工学院応用化学系の一杉 太郎教授らの研究グループが,高いリチウムイオン伝導性を示し,新しいイオン伝導メカニズムを有する有機分子結晶を開発した,と発表した.本研究は,独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金,および国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業「さきがけ」,「CREST」などの支援を受けて行われ,成果は米国化学会誌Nano Lettersにオンライン掲載された(注).

 持続可能な社会実現に向け,安全性の高い固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池(LiB)への期待が高まっている.これまで固体電解質の候補として,セラミックス(結晶性無機物),ガラス(非晶性無機物),ポリマー(非晶性有機物)などが研究されてきたが,近年は,これらの分類に当てはまらない新たな分子結晶電解質(結晶性有機物)も着目されている.分子結晶は,多数の分子が相互作用で結びつき規則的に配列した構造を持ち,構成要素となるリチウム塩や有機分子の組合せや比率を適切に選択することで,イオン伝導パスの構築が可能となる.また,通常の結晶に比べ柔軟性が高く,電池を構成する際に電極と電解質間に良好な界面が形成されることも期待される.室温において10-4Scm-1の伝導度を示す分子結晶(LiCl{(CH3)2NCHO})もすでに報告されているが,熱安定性が低く40℃で分解し,さらに-20℃では伝導度が1×10-7Scm-1まで低下するという問題があった.

 研究グループは,高いリチウムイオン伝導性を示す分子結晶の実現には,「Li周辺の相互作用の低減」,「Li-Li間距離の短縮」,「空き配位座の存在」が重要であることを見出し,これらを満たす構成要素にリチウム(ビスフルオロスルホニル)アミド(Li{N(SO2F)2}:LiFSA)と,スクシノニトリル(NCCH2CH2CN:SN)を選択した.FSAとSNの選択には,それらの沸点が高く熱安定性の向上に寄与することも考慮されている.LiFSAとSNをアルゴン雰囲気下でモル比1:2で加熱溶融混合して冷却すると,幅広い温度で高いリチウムイオン伝導性(30℃で10-4Scm-1,-20℃で10-5Scm-1)を示す分子結晶電解質(Li(FSA)(SN)2)が得られた.イオン伝導の活性化エネルギーは28kJmol-1,リチウムイオン輸率は0.95であり,硫化物系のセラミック電解質に匹敵することも確認された.この分子結晶は加熱によって融解し,融点(59.5℃)以下に冷却すると元の結晶に戻るので,電池作製時は融液として扱える.電池正極となるLiCoO2薄膜上にLi(FSA)(SN)2の融液を滴下し,その上に負極となる金属Liを置きLi(FSA)(SN)2を固体電解質とする全固体LiBが作製された.耐久性では,100サイクルの充放電後において,初期放電容量(50mAhg-1)の90%が維持される結果が得られている.

 開発された電解質は,電池製造時には溶融液体として扱うことで工程の簡易化が図れ,また電池使用時にクラックが入った場合は,一時的に加熱することで修復が可能になることも期待される.研究グループは,分子結晶電解質の特性を向上させ,全固体電池の開発に寄与したいとしている.

(注)K. Tanaka, Y. Tago, M. Kondo, Y. Watanabe, K. Nishio, T. Hitosugi, and M. Moriya, "High Li-Ion Conductivity in Li{N(SO2F)2}(NCCH2CH2CN)2 Molecular Crystal", Nano Letters, 2020, DOI:10.1021/acs.nanolett.0c03313; Publication Date: October 28, 2020