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半導体量子ドット超格子における量子共鳴の次元制御 ~ナノ材料を利用した次世代デバイスの実現に期待~

 国立研究開発法人理化学研究所(理研)は2020年10月30日,理研 創発物性科学研究センター創発超分子材料研究チームの夫 勇進チームリーダーらの研究グループが,正または負に帯電した物質を交互に吸着させる「Layer-by-layer」法により「半導体量子ドット超格子」を作製し,面内・積層方向の量子ドット間距離の制御により,量子ドットの波動関数の重なりで生じる短距離相互作用:「量子共鳴」の次元制御に成功した,と発表した.本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)などの支援を受け,成果はNature Communications誌で公開された(注).

 粒子サイズが10nm程度以下の量子ドット(QD)内の電子は,運動が制限されるため離散エネルギー準位に局在する.局在準位間の遷移は半導体レーザに利用され,エネルギー準位のサイズ依存性を利用してQD分散液の色彩を変えられる.QDが2nm以下に近接すると量子共鳴が起こってミニバンドが形成され,QD間を電子が移動し,エネルギー準位が変調される.近接は,直線,平面,立体的のいずれでも起こるが,各次元にQDを制御・配列して量子ドット超格子を作製することは難しかった.

 QDは有機溶媒中での化学反応により合成できるが,QDの表面が長い炭素鎖配位子で修飾されているため,QD同士を近接させるのは難しい.そこで,研究グループは,長さの短い配位子を用いて,QD同士が近接した構造の作製を試みた.長さが0.5nm程度と短いN-アセチル-L-システインを配位子として用い,前駆体水溶液(量子ドット溶液)から水熱合成法により半導体のテルル化カドミウム(CdTe)QD(直径3.4±0.3nm)を酸化シリコン基板上に合成した.さらに,「layer-by-layer法」により,負に帯電しているCdTe QDと正に帯電しているカチオン性ポリマーの交互積層構造を作製した.

 低濃度QD溶液とその10倍濃度の高濃度溶液から作製したQD単層膜の構造を走査型透過電子顕微鏡で解析すると,QD間平面距離はそれぞれ2.2nm,0.5nmと求められ,低濃度溶液ではQD孤立系となり,高濃度では二次元の量子共鳴が期待された.X線構造解析から周期3.9nmの二次元的配列が確認され,QDのサイズ3.4nmとの差の0.5nmは上記平面距離と一致する.また,多層膜では溶液濃度によらず,積層方向に周期3.5nmで規則配列していた.したがって低濃度多層構造では積層方向に一次元量子共鳴構造ができ,高濃度では三次元量子共鳴構造ができていると見られる.次に量子共鳴が起こっているか,光学測定で確かめた.面内のQD密度を変えて作製した単層試料での光吸収スペクトルを測定すると,吸収ピークは密度が高くなるほど低エネルギー側にシフトする.また,積層試料では,低密度,高密度とも吸収ピークは低エネルギー側にシフトし,三次元近接構造の高密度試料の方がシフトは大きい.光吸収シフトは量子共鳴によりミニバンドができたことによるもので,量子共鳴の次元制御を実証したものとなる.

 本研究で提案した量子ドット超格子の作製手法は,多種多様なナノ粒子配列構造を設計する指針となり,新たな光物性の解明やナノ材料を利用した新規デバイスの実現に寄与するものと期待している.

(注)TaeGi Lee, Kazushi Enomoto, Kazuma Ohshiro, Daishi Inoue, Tomoka Kikitsu, Kim Hyeon-Deuk, Yong-Jin Pu, DaeGwi Kim, "Controlling the dimension of the quantum resonance in CdTe quantum dot superlattices fabricated via layer-by-layer assembly", Nature Communications, Vol. 11