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2次元物質を用いた簡便薄膜作製法を開発 ~溶液1滴,30秒で機能性酸化物のナノコーティングを実現

 名古屋大学は2020年11月4日,同大学未来材料・システム研究所の長田 実 教授,施 越 大学院生,国立研究開発法人物質・材料研究機構の佐々木 高義 フェローらの研究グループが,酸化物ナノシートなどの2次元物質を,30秒程度の短時間で基板上に隙間なく単層で配列して,薄膜を作製する新技術を開発したことを発表した.この研究成果は,米国化学会誌ACS Nanoオンライン版に掲載された(注).

 グラフェンや酸化物ナノシートなどに代表される2次元物質(ナノシート)は,高速電子伝導,高誘電性,高い触媒性などの優れた機能を発現し,広い分野での応用が進められている.従来,ナノシートの薄膜作製には,ナノシート分散液を浅い水槽(トラフ)に展開後,気液界面に広がったナノシートをバリヤーで圧縮後固体基板に転写するラングミュア・プロジェット法が適用されてきた.しかし,複雑な操作や条件設定が必要で,作製時間も1時間程度要することが,ナノシートの工業的製造の大きなネックとなっていた.

 研究グループは,酸化チタン,酸化ニオブ,酸化ルテニウム,酸化タングステンおよび酸化グラフェン等の酸化物ナノシートを対象とした次のような新規製造法の開発を行った.まず,これらのナノシートは高い2次元異方性を有しており,水溶液中に分散したコロイド溶液として得られたものを,純水で100倍に希釈し,エタノールを少量加えて,コロイド水溶液を作製した.次に,100℃に加熱したホットプレート上に設置した基板にマイクロピペットを使ってコロイド水溶液を1滴滴下し,その後吸引するという作業を行い,30秒程度で完全に乾燥した表面が得られ,成膜が完了した(論文Supporting Materialの動画参照).

 原子間力顕微鏡(AFM)によりナノシート同士は隙間なく稠密に配列したナノシート単層膜であることを確認し,被膜率は93~97%と算出された.このようにナノシートが稠密するメカニズムは次のように説明される.コロイド水溶液では加熱により対流がおこり,ナノシートは液滴表面に集まり,ナノシートは電荷を帯びているため基板表面と弱く相互作用しつつ基板端部に運ばれる.基板端部ではコロイド溶液の蒸発速度が速いので,端部でナノシートが固定され,このナノシートがストッパーの役目をして中央に向かってナノシートが配列して行くと考えられる.本成膜技術は,様々な組成,構造のナノシートに適用可能であること,様々な形状,サイズ,材質の基材上に成膜できることが確認できており,汎用性が高い.

 また,このナノシート単層膜製造技術を反復することで多層膜や,超格子膜を構築することができる.一例として,酸化チタンナノシートについて,単層成膜操作を10回繰り返し,作成した多層膜の断面を高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)を用いて観察した結果,基板上に原子レベルの厚さのナノシートの緻密さと平滑性を維持した積層構造が形成されていることが確認されている.

 さらに,ガラスおよびフレキシブル基板を用いた単層膜,多層膜の成膜を行い,絶縁膜(Ca2Nb3),磁性膜(Ti0.8Co0.2O2),伝導膜(Ru0.95O2),容量膜(金属/絶縁体/金属),半導体膜(Ti0.87O2),フォトクロミック膜(Cs4W11O36)など多彩な機能性酸化物薄膜の作製やナノコーティングが可能なことも確認した.今回開発した手法は,簡便,短時間,少量の溶液で,大面積で且つ高品質に製造できるため,製造コストも大幅に削減でき,工業的な薄膜製作法,ナノコーティング法として有効である.

(注)Yue Shi, Minoru Osada, Yasuo Ebina, and Takayoshi Sasaki, "Single Droplet Assembly for 2D Nanosheet Tiling", ACS Nano, 2020, DOI:10.1021/acsnano.0c05434; Publication Date: October 29, 2020