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凹レンズにも凸レンズにも! ~焦点距離を自在に変えられる極薄なメタレンズを実現~

 東京農工大学は2020年11月10日,同大学大学院工学研究院 先端機械システム部門の岩見 健太郎准教授,同大学院工学府 機械システム工学専攻の池沢 聡特任助教らの研究グループが,光の波長に比べて小さいサイズの構造を配列したメタサーフェスを利用して,凹レンズから凸レンズまで幅広い焦点距離調整が可能な極薄メタレンズを製作することに成功したと発表した.この成果は,超小型映像技術の実用化に貢献すると期待される.本研究は独立行政法人日本学術振興会 科学研究費補助金の支援により行われ,素子製作には文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業の東京大学微細加工拠点が提供する共用設備を利用した.また,素子の設計や実測データの解析には,東京工業大学のスーパーコンピュータTSUBAME3.0を利用した.本成果は,米国光学会刊行誌Optics Expressに掲載された(注).

 メタサーフェスで,自然界には存在しない屈折率や光機能を実現する研究が進展している.メタサーフェスを応用した極薄の平面レンズであるメタレンズは,超小型・軽量であることから,小型飛行ロボット・ドローンの眼やバーチャルリアリティ用ヘッドセット・プロジェクタの小型化,スマートフォンカメラの薄型化などへの応用が期待されている.メタレンズの実用化のためには,小型・軽量という特徴を生かしつつ,色収差の低減や可変焦点機能などを実現することが望まれる.しかしながら,従来の可変焦点メタレンズは,可変焦点機能を付与しようとすると大型化してしまったり,焦点の可変範囲が狭いという課題があった.

 この課題に対して本研究チームは,ガラス基板上にアモルファスSiのナノ柱構造(高さ400nm,幅120~280nm,周期400nm)を構成要素のメタアトムとして1,700万本配置した「モアレ(干渉縞)・メタレンズ」を製作した.このメタアトムは,八角柱として設計しているが,実際に製造した素子では柱幅が小さくなると円柱構造になり,偏光無依存で,2πの位相差を生じる.モアレ・メタレンズは2枚の軸方向非対称レンズからなり,お互いに回転させることで凸レンズにも凹レンズにもなる.これは,焦点距離が正(凸レンズ)から負(凹レンズ)に連続的に変化することに対応する.メタアトムの配置は,メタレンズ内を通過する光の位相分布が,2枚のモアレ・メタレンズの組み合わせで焦点距離が可変となるように設計した.

 電子ビームリソグラフィーと反応性イオンエッチング等の微細加工技術を用いて,2枚のモアレ・メタレンズ(直径2mm)を実際に製作し,波長900nmの近赤外線で焦点距離を変化させられることを実証した.2枚のレンズの回転角(+90°~+25°)で焦点距離の可変範囲(+1.73mm~+5mm)が,回転角(-90°~-25°)で焦点距離の可変範囲(-1.73mm~-5mm)が得られた.また,回転させるだけで焦点距離が変るため,通常のズームレンズのようにレンズ間に間隔を必要とせず,小型化に適している.

 今後は可視光などより短波長での動作やcm級の大口径化,カラー化(色収差の抑制:違う色を入れても焦点距離が変らない)を進める.また現在は手動で回転角を変えているが,マイクロ自動ステージと集積化することなどによる自動化を目指す,としている.

(注)Kentaro Iwami, Chikara Ogawa, Tomoyasu Nagase, and Satoshi Ikezawa, "Demonstration of focal length tuning by rotational varifocal moiré metalens in an ir-A wavelength", Optics Express, Vol. 28, Is-sue 24, pp. 35602-35614 (2020), DOI: 10.1364/OE.411054; Published: November 9, 2020