ナノテク情報

ナノテク・材料

世界最高レベルの広角の低反射性と防曇性を兼ね備えた光学部材を開発 ~複雑形状光学部品の反射防止コート高機能化に貢献~

 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は2020年11月24日,製造技術研究部門 表面機能デザイン研究グループの栗原 一真研究グループ長と,東亜電気工業株式会社(東亜電気工業)が,広い波長域で広い入射角範囲で世界最高レベルの低反射率が実現でき,防曇効果も併せ持つ,モスアイ構造を越える性能のナノ構造体を開発した,と発表した.今回の成果は,第11回高機能フィルム展で展示紹介された(注).

 社会のIoT化とともに,自動車のメーターパネルやテレビモニターなどに限らずさまざまなディスプレー装置やセンサーに,優れた視認性や耐環境性が求められている.光学部品表面の反射を低減し,視認性を向上させるため,光学部品には低反射率膜のコートが行われる.近年,より広い波長域,より広い入射角範囲で低反射率を実現可能なモスアイ構造の低反射率膜が注目され,一部の液晶テレビやカメラレンズで実用化も進みつつある.産総研では2007年に,凹凸が100nm程度のサイズを持つモスアイ構造の金型を開発し,射出成形法で反射防止機能の付いたレンズの大量生産技術を開発した.今回の成果は,モスアイ構造の金型を使って造られた光学部品の表面に,真空蒸着で無機材料のナノサイズ柱状構造を自己形成させたものである.これにより,低反射の維持される入射角範囲が,従来の40°から60°に広がり,さらに蒸着した無機材料が親水性であることから,光学部品表面も親水性となり防曇性能も向上した.

 開発のポイントは無機材料を真空蒸着する際の条件である.蒸着される粒子の平均自由行程を従来の蒸着条件の1/10以下とすることで,無機粒子同士の衝突頻度を高め柱状構造の自己形成を促している.従来のように平均自由行程の大きい条件では,無機粒子は蒸着源からナノ構造に直接飛来して皮膜状に蒸着されるが,平均自由行程の小さい本開発の条件では,無機粒子が飛行中に衝突を繰り返すため,飛来方向がばらばらとなり柱状構造が形成される.射出成形で形成された100nmオーダーのモスアイ構造の凹凸の内部に,ランダムな方向を向くナノオーダーの柱状構造が存在する新たなナノ構造が得られる.光の入射角が小さいときの反射率は従来のナノ構造と同等で1%以下であるが,入射角が40°を越えると従来法と本技術による反射防止効果の違いは拡大し,入射角60°では,本開発の反射率が1%以下に留まるのに対し,従来法の反射率は本開発品の約7倍に増大する.

 また,親水性の無機材料柱状構造が凹凸の内部に存在するため,水との接触角が10°以下の超撥水状態が長期間維持される.防曇効果の経時変化を調べるため,長期間湯気を当てながら水接触角の変化を測定した.初期の接触角は約5°である.従来の親水性無機膜では,実験開始直後から接触角の増大が始まり20日目には約50°に達したが,本開発品の水接触角の変化は少なく,20日目でも接触角は約10°に留まった.ナノ凹凸構造の内部に無機材料で構成された防曇構造は安定性が高く,塗布法で付与される防曇機能より耐久性があり,製造時の歩留まりも高い.

 今回開発された技術は,広い入射角で低反射率さらに長期の防曇性も付与できるので,今後さまざまな光学部材に展開が期待されるという.

(注)高機能フィルム展(2020年12月2日~4日,幕張メッセ(千葉市)東亜電気工業ブース(20-41)