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可視光を波長340nm以下の紫外光に変換する溶液系を開発 ~効率と光耐久性の向上指針を獲得~

 東京工業大学は2020年11月25日,同大学工学院 機械系の村上 陽一准教授と日本化薬株式会社のグループが,2種類の有機分子を組み合わせることにより,可視光を波長320~340nmの紫外光に高効率(約10%)で波長変換する溶液系を開発したと発表した.本研究は,独立行政法人日本学術振興会の科学研究費助成事業の支援を受けて実施された.本成果は,英国王立化学会の学術誌Physical Chemistry Chemical Physicsに掲載された(注).

 波長の短い紫外光は,光触媒や人工光合成など幅広い光エネルギー変換作用があり有用性が高いが,自然光にはごく僅かしか含まれない.これまで可視域(波長400nm以上)から紫外域(同以下)への光アップコンバージョン(UC)の報告は多く存在したが,より光子エネルギーが高く用途が広がる波長の短い340nm以下へのUCの報告例は極めて少なく,また,発光ダイオード(LED)などの人工光源でも,紫外域LED(特に発光波長340nm以下のもの)は,可視域のLEDより高コストになる.さらに,より根本的問題として,UC溶液系の効率と光耐久性を支配するメカニズムはこれまで未解明であった.

 本研究グループは,様々な溶媒と,そこに溶かすUC機能を与える溶質分子とを変えて探索した結果,ある2種類の有機分子を組み合わせることで,比較的高い効率(約10%)と安定性を備えた,可視光を波長340nm以下の紫外光に変換する溶液系を開発した.波長の長い入射光を吸収する「増感分子」と,短波長の光を発光する「発光分子」とを組み合わせてUCする.まず,増感分子であるアクリドン誘導体が入射光(波長:405nm)を吸収して「三重項状態」という寿命の長い励起状態となった後,その励起エネルギーを発光分子であるナフタレン誘導体に受け渡す.このエネルギー移動の結果,増感分子は基底状態に戻り,発光分子が三重項状態となる.三重項状態の2個の発光分子が溶液中で出会うと,「三重項-三重項消滅」により,2個の発光分子の一方がよりエネルギーの高い励起状態となる.その励起状態から蛍光が放たれ,入射光より短波長化された光(波長320~340nm)が生成される.

 本技術の応用実現に向けて重要な鍵となる「どのように ①UC効率を高め,②光劣化を抑制するか」という未解明点について,様々な溶媒を使用して系統的な研究を行った.その結果,①UC効率については,溶媒の極性が増感分子と発光分子の三重項エネルギー状態の差に影響し,それが増感分子から発光分子へのエネルギー移動のしやすさに影響するという,UC効率の支配メカニズムを明らかにした.また ②光劣化耐性については,用いる溶媒と溶質のフロンティア軌道(電子の入っている最高エネルギーの軌道)エネルギーの差をできるだけ大きくすることが光劣化を抑制することを明らかにした.

 今回の成果では,可視光を紫外光に変換する溶液試料系のUC効率と光耐久性の向上に関する普遍的指針を獲得した.日本化薬株式会社との本課題に関する共同研究は2020年3月をもって終了したが,引き続き新たな共同研究や産学連携等を通じて本技術の性能向上と応用展開を進める,としている.

(注)Yoichi Murakami, Ayumu Motooka, Riku Enomoto, Kazuki Niimi, Atsushi Kaiho, and Noriko Ki-yoyanagi, "Visible-to-ultraviolet (<340 nm) photon upconversion by triplet-triplet annihilation in sol-vents", Physical Chemistry Chemical Physics, 2020, Advance Article, DOI: 10.1039/D0CP04923A; First published 11 Nov 2020