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光応答性有機結晶による近赤外-可視波長変換と光スイッチングを実現 ~極性結晶の光誘起"固―液"相転移を利用する光コンピューター要素技術~

 九州大学は2020年12月23日,同大学大学院工学研究院の君塚 信夫教授らが,光信号に応答する分子が極性結晶を自発的に形成し,かつ結晶中で光異性化することにより結晶が液化することを見出し,さらにこの光誘起“固―液”相転移現象を利用して光第二高調波発生を他波長光でスイッチする光論理ゲート機能を持つ分子システムの開発に成功したと発表した.本研究は独立行政法人日本学術振興会 科学研究費等の支援を受け,本成果はドイツ学術誌Angewandte Chemie International Editionに掲載された(注).

 情報処理能力の向上に向けて,原子・分子の量子力学的な性質を利用する「量子コンピューター」の開発が注目され,光子を利用する“光コンピューター”は,光による局所的な分子制御を情報処理に用いる.一方,π共役電子系を持つ有機分子は,分子設計の自由度が高く,無機結晶材料に比べて大きな非線形分極を示し得るから,光スイッチングや光第二高調波発生(SHG:Second Harmonic Gen-eration)材料への応用が期待される.しかし,ほとんどの有機分子結晶は対称中心を持ち,スイッチングやSGHの元となる分子が一方向に配向した極性結晶が得られる例は極めて限られていた.

 そこで本研究では,trans→cis光異性化特性を示し,かつcis体の熱力学的安定性が高いことが近年報告されたアリルアジドピラゾール誘導体を探索した結果,化合物1(trans)(trans-p-methoxy aryla-zopyrazole)が自発的に極性結晶を形成することを見いだした.単結晶X線構造解析の結果,化合物1(trans)においては,ピラゾール環のN原子と隣接1(trans)分子のメトキシ基(メチル基)との間に水素結合が形成され,この分子間水素結合が,双極子を一方向に配列した極性結晶の生成に寄与していると考えられる.

 この1(trans)結晶は波長365nmの紫外光を30分照射すると,trans→cis光異性化反応が進行して結晶が液体化し,また1(cis)に470nmの可視光を120分照射すると1(trans)に戻り,可逆的に結晶化を起こす.光で液体化した1(cis)液体を薄膜セルに封入し,可視光(480nm)を照射して薄膜セル内で1(trans)の結晶を再形成させ,1064nmのレーザーを試料に照射したところ,波長が半分の532nmのSHG光が観測された.次に365nmの光照射により1(trans)結晶を1(cis)液体に変化させると,SHG強度は消失し,続けて可視光(480nm)を照射して1(trans)を再形成させると,SHG強度は再び回復した.紫外光(365nm)―可視光(480nm)の照射サイクルを繰り返すことによって,SHG強度を可逆的にオン/オフスイッチできることが分かった.さらに,1(cis)は水に極めて高濃度(690μM)に溶解できることが分かり,水溶液中で可視光(480nm)を照射すると,cis→trans光異性化により生じた1(trans)は,マイクロサイズの極性結晶として析出した.この変化は,可逆的である.次に,1(cis)水溶液の空気面から可視光を照射すると,気―液界面において巨大な極性結晶膜が光誘起形成された.このプロセスをガラス等の基板上で行うと,固体表面上に巨視的異方性を有する1(trans)の極性配向膜を形成できることが明らかとなった.

 本研究が光コンピューターへの応用をはじめ,様々な光機能材料の開発に繋がることを期待している.

(注)Yuki Nagai, Keita Ishiba, Ryosuke Yamamoto, Teppei Yamada, Masa-aki Morikawa, Nobuo Kimizuka, "Light-Triggered, Non-Centrosymmetric Self-Assembly of Aqueous Arylazopyrazoles at the Air-Water Interface and SHG Switching", Angewandte Chemie International Edition, Accepted Articles, DOI: 10.1002/anie.202013650; First published: 21 December 2020