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結晶はどうやってできる?その瞬間を見た! ~CNTナノ空間に閉じ込めた食塩水からの結晶核生成を電子顕微鏡で実時間観察~

 東京大学,国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)および同 科学技術振興機構(JST)は,2021年1月22日,東京大学大学院 理学系研究科の中村 栄一特別教授らが,産総研の灘 浩樹研究グループ長らと共同で,無秩序な分子集合体から結晶核が形成される過程を原子分解能単分子実時間電子顕微鏡(SMART-EM)で,スローモーション映像として記録することに成功した,と発表した.本研究は,独立行政法人日本学術振興会の科学研究費,JSTの研究成果展開事業などの支援を受けて行われ,成果は米国化学会のJournal of the American Chemical Society誌に掲載された(注).

 さまざまな化学品の製造において結晶化は重要な役割を果たしている.生成した結晶について原子配列などの静的構造の研究は進んでいるが,無秩序な状態から秩序だった原子配列が生まれる動的過程を原子レベルで詳細に観察することはこれまで行われていなかった.とくに,結晶化の初期過程である核生成は,確率論的な現象で,微小な時間・空間スケールであることから,従来の手法で狙いをつけたナノ領域を観察しても核生成を予測し,的確に捉えるのは困難であった.

 中村特別教授らは2005年以来SMART-EMの開発に取組んでおり,今回,新たに開発したナノ空間を制限する試料調製法をSMART-EMに組合せて結晶核生成の解明に臨んだ.ナノ空間の制御には円錐状カーボンナノチューブ(CNT)の内部空間が用いられた.CNTの内部空間は100nm3のオーダーで,通常のフラスコの大きき100cm3に比べると1000万分の1のスケールである.塩化ナトリウム(NaCl)水溶液(食塩水)を,水分散性のアミノ基変性CNTに内包させ,その水分を温度298K,真空下で除去しながらNaClの結晶化を観察した.撮影されたスローモーション動画(20~40ms/フレーム)には,わずかに振動するCNT先端の円錐形部分でNaCl分子の自己集合・核形成が誘起され,幅4原子,高さ6原子で大きさ1nm程度の直方体NaCl結晶核が再現性良く,繰り返し形成され成長する様子が捉えられている.結晶前駆体と呼ばれる分子集合体を経て突如,秩序を持った結晶核が出現し,それが流動しながら成長する.核形成に要する時間は2~10秒以内で,平均的には5.07秒であった.さらに473Kにおいて,結晶欠陥の成因とも考えられる原子配列が変動する様子も観察されている.

 開発された手法により,原子の自発的な集合から秩序だった構造を生成し,結晶に成長してゆく過程を再現性良く繰り返し観察することが可能になった.本研究は,核形成過程における分子集合体のサイズだけでなく,結晶核の構造ダイナミクスが重要な役割を果たすことを示唆するもので,今後の自己集合・相転移現象などの新たな研究展開や,新材料の設計・開発への応用が期待されるという.

(注)Takayuki Nakamuro, Masaya Sakakibara, Hiroki Nada, Koji Harano, and Eiichi Nakamura, "Capturing the Moment of Emergence of Crystal Nucleus from Disorder", Journal of the American Chemical Society, 2021, DOI: 10.1021/jacs.0c12100; Publication Date: January 21, 2021