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一方向植物ナノファイバー強化蚕糸の創製に成功 ~グリーンコンポジットの強化材として期待~

 東北大学は2021年2月3日,同大学大学院 環境科学研究科の成田 史生教授,栗田 大樹助教らの研究グループが,蚕(かいこ)に植物ナノファイバーを加えた餌を食べさせることで,特殊な装置を使用せず,植物ナノファイバーと蚕糸からなる複合糸の創製に成功した,と発表した.本研究の一部は,独立行政法人日本学術振興会の科学研究費助成事業 挑戦的研究(開拓)の支援を受けて行われ,成果はMaterials & Design誌にオンライン掲載された(注).

 植物繊維をナノレベルまで解繊して得られるセルロースナノファイバー(CNF)が,新たな樹脂強化材料として注目されている.CNFの添加効果を有効に引き出すには,被強化材料となる樹脂のなかにCNFを均一分散させることが必要で,さらに,CNFの配列方向も制御できれば,補強効果をより高めたり方向性を持たせることも可能になる.しかし,CNFの均一分散やその配列制御は容易ではなく,補強効果を発揮する複合材料の作製方法や物性評価技術の開発が行われている.

 研究グループは,本研究で,蚕を利用し蚕糸のなかにCNFが一方向に配列した複合糸を創製した.このCNF強化蚕糸は,蚕の餌にCNFを混ぜて食べさせるだけで容易に得られる.CNFの含量率5wt%と10wt%の餌を与え,繭から得られた糸の引張試験を行った.糸の長さ方向の弾性率(縦弾性率,ヤング率)は通常餌の5GPaに対し,5wt%の餌は10GPa,10wt%の餌は6GPaとなり,CNFを5wt%与えることで通常の餌に比べおおよそ2倍の強化効果が得られた.引張強度は,通常の餌と10wt%の餌がほぼ300MPaであったが,5wt%の餌では500MPaと高い値が得られ,CNFを5wt%与えた餌で顕著な機械的性質の向上効果が認められた.原子間力顕微鏡(AFM)で糸の表面を観察すると,長さ1μm程度のCNFが糸の長さ方向に配列している様子が見られる.CNF 5wt%の糸では,CNFは一本ずつ分かれて分散しているが,CNFを10wt%与えた糸にはCNFの凝集があり,これが空隙の原因となって強化効果を損なうと考えられる.

 蚕は体内の左右に一対の絹糸腺を持ち蚕糸を分泌する.蚕糸の成分は,70%を占める糸内部のフィブロンと糸の周囲に存在する30%のセリシンで構成され,通常の絹糸では,セリシンを除去してから用いられる.本研究では,化学薬品による蚕糸への影響を懸念しセリシンを分離せずに強度を測定したが,それでも良好な機械的な強化効果が得られた.これにより,これまで困難だったCNFの一方向配列の利用が可能となり,植物由来の樹脂と複合化することで,一方向CNFで補強したグリーンコンポジットの開発が期待される.

 研究グループは,今後,CNFを餌に交えて与えた蚕を育てる複合糸の大量生産と用途拡大による絹糸業界の活性化を期待している.

(注)Chen Wu, Satoshi Egawa, Teruyoshi Kanno, Hiroki Kurita, Zhenjin Wang, Eiji Iida and Fumio Narita, "Nanocellulose Reinforced Silkworm Silk Fibers for Application to Biodegradable Polymers", Materials & Design, Available online 1 February 2021, 109537, In Press, Journal Pre-proof; DOI: 10.1016/j.matdes.2021.109537;