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測定・評価

光の中で半導体のナノ運動とフォースを読む! ~光による構造的強さの変化を測るために~

 名古屋大学と国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2021年2月18日,同大学大学院工学研究科の中村篤智 准教授,松永克志 教授らの研究グループが,独ダルムシュタット工科大学のXufei Fang博士および東京大学大学院工学系研究科総合研究機構の幾原雄一 教授,栃木栄太 助教との共同研究で,半導体に外部から光と力(フォース)を同時に入射する手法を新たに開発し,結晶の転位の運動が光照射で変化する現象をナノスケールで計測することに成功したと共同発表した.本研究はJSTの「さきがけ研究」他による支援を受けて行われ,成果は米国科学雑誌Nano Lettersにオンライン版に掲載された(注).

 現代の半導体製品はナノスケールの構造を持つので,その機械的な信頼性を評価するには,ナノスケールで構造的強さを評価する必要がある.半導体の構造的な強さは,周囲の光環境に依存して,より強くなったりより弱くなったりする.半導体の構造的強さは内部の転位のナノスケール運動が支配しているが,これまで,その運動を計測する手段が限られており,実態の多くは未解明だった.こうしたことから,実際のナノスケールの構造物に対応でき,かつ光環境を完全に制御が可能な,ナノスケールの強さの計測手法の確立が求められていた.

 そこで本研究グループは,光制御環境下で半導体内部の転移のナノスケール運動を計測する“光インデンテーション法”を開発した.ナノインデンテーション試験機に光照射機能を付加し,半導体(ZnS)に変形力(40μN/100μN/200μN)を加えた.キセノン光源から照射光を取り出し,波長(300nm/365nm/550nm)と光強度(40μW)を制御した.光照射は,半導体表面に垂直の力を印加する圧子によって影を生じないように,低角(16°)かつ2方向から光ファイバーを用いて照射する.表面におけるナノスケール形状変化は走査型プローブ顕微鏡で調べ,内部組織の観察集束イオンビーム装置と透過型電子顕微鏡により行った.

 その結果,結晶内部の転位の発生と運動に対して,光環境依存性を正確に評価することが可能となり,重要な科学的事実を発見した;転位の発生に光はあまり影響せず,転位の運動には光が強く影響する.この理由は,まず,転位の発生に必要な転位源からの転位の張り出しを支配する転位の線張力は転位の歪みエネルギーに依存し,この歪みエネルギーに光励起キャリア(過剰な電子やホール)はほぼ影響しない.一方,転位のすべり運動時には,光励起キャリアが静電的相互作用により転位に引きずられるため,結晶の形状変化(塑性変形)を担う転位の運動に光が強く影響する,と考えられる.

 今回の“光インデンテーション法”により,非常に小さなサンプルから,もしくは材料の表面から,材料の強さに及ぼす光の影響を評価することが可能となった.とりわけ,変形や破壊の起点は材料表面であることが多く,従来考慮されていなかった材料表面の力学的性質の解明が進むことが期待される,としている.

(注)Atsutomo Nakamura, Xufei Fang, Ayaka Matsubara, Eita Tochigi, Yu Oshima, Tatsushi Saito, Ta-tsuya Yokoi, Yuichi Ikuhara, and Katsuyuki Matsunaga, "Photoindentation: A New Route to Under-standing Dislocation Behavior in Light", Nano Letters , 2021, DOI: 10.1021/acs.nanolett.0c04337; Publi-cation Date: February 17, 2021