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物性・原理

室温で結晶内の電子秩序が強誘電性を生み出すことを発見 ~超高速電子材料の実現へ~

 東京工業大学(東工大)と岡山大学は2021年2月22日,東工大 理学院 化学系の沖本洋一 准教授,岡山大学大学院自然科学研究科の池田直 教授,国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構の藤原孝将 研究員らの研究グループが,イッテルビウム(Yb)と鉄(Fe)を含むセラミックス化合物において,結晶内の電子の秩序が室温で強誘電性を生み出すことを発見したと発表した.この研究成果は英国科学誌Scientific Reportsに掲載された(注).なお,本研究は,文部科学省科学研究費補助金を受けて行われた.

 強誘電体は,メモリ,キャパシタ,アクチュエータなどの機能を発現するエレクトロニクスを支える基幹材料の一つである.その機能は,結晶中の原子やイオンの変位による強誘電体の分極反転過程を利用している.そのため,耐久性や動作電圧,超高速動作周波数に上限があった.この問題にブレークスルーとなる新しい機構に基づく新規強誘電体の開発は重要な研究テーマとなっていた.その中の一つとしてYbとFeを含む複合酸化物(YbFe2O4)が注目されている.Yb-O層と鉄-酸素二重層が交互に多数積み重なった結晶構造で,鉄-酸素二重層内の異なる価数の鉄イオン(Fe2+とFe3+)の秩序と偏りによって強誘電分極が発生する可能性が提唱されている.即ち,原子の位置の変化でなく,電子の偏りに基づく強誘電性である.しかし,その直接の証拠はこれまで見つかっていなかった.

 共同研究グループは,波長800nmのモードロックTiSレーザを用いてYbFe2O4結晶の第二次高調波発生(SHG:強いレーザ光を照射したときに非線形光学効果による2倍の周波数の光の発生)を調べ,入射光の偏光角度が結晶のa軸,b軸の正方向,負方向の4方向と一致するところでSHG強度が増大するという強誘電体の対称性を反映したSHG角度プロファイルが観測された.これにより,この結晶が電気分極を持つことが初めて明らかになり,その分極の方向を定めることに成功した.

 さらに,中性子散乱による構造解析を行なった.その超格子反射強度(結晶の単位格子より長いサイズの周期性に伴う回折ピーク)の解析からc軸方向の鉄-酸素二重層の層間距離が求められた.また,SHG強度と超格子反射強度の温度依存性の比較から,YbFe2O4の分極状態が「Fe2+とFe3+の秩序の層間距離」にともなって変化することが分かった.これは,電子の秩序によって強誘電性を示す初めての証拠である.即ち,鉄-酸素二重層はFe2+が多い層とFe3+が多い層が対になっており,その対の中で電子の移動によりFe2+とFe3+が入れ替わることで極性が換わることが分かった.

 この電子強誘電体は,従来型の原子やイオンの変位により分極が起こる従来型の強誘電体に比べて,より高速かつ低エネルギーで極性反転するので,分極反転に伴う疲労が軽減され,低電場での極性反転が可能となる.次世代のテラヘルツからペタヘルツ情報通信用屈折率スイッチの実現,強誘電体メモリに応用して情報入出力の大幅高速化を図るなど,現在の100倍以上高性能な電子部品の提供できる可能性を持っている.

(注)K. Fujiwara, Y. Fukada, Y. Okuda, R. Seimiya, N. Ikeda, K. Yokoyama, H. Yu, S. Koshihara & Y. Okimoto, "Direct Evidence of Electronic Ferroelectricity in YbFe2O4 Using Neutron Diffraction and Non-linear Spectroscopy", Scientific Reports, Vol. 11, Article number: 4277 (2021), DOI: 10.1038/s41598-021-83655-6; Published: 19 February 2021