ナノテク情報

ナノテク・材料

木材からセルロースナノファイバーを骨格とした多孔質材料を開発 ~高強度・光透過性・断熱性・自己消火性を兼備~

 東京大学は2021年2月25日,簡便で低コストの蒸発乾燥法により,木材由来のセルロースナノファイバー(CNF)を骨格とし,高強度・光透過性・断熱性・自己消火性を兼ね備えた多孔体(多孔質材料)の作製に成功した,と発表した.本研究は,同大学 大学院農学生命研究科の佐久間 渉 博士課程学生,齋藤 継之 准教授らのチームにより,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業「多段階ボトムアップ式構造制御によるセルロースナノファイバーの高度特性発現」の一環として行われ,成果はACS Nano誌に掲載された(注).

 CNFから作られるエアロゲルはCNFを骨格とする多孔体で,超低密度で微細な網目構造を持ち断熱性が高く,一般的なエアロゲルの欠点である脆さも克服していることから,透明断熱材としての用途が期待されている.CNFエアロゲルは,CNFを液体でゼリー状に固めたゲルから液体を除いて造られる.一般的な蒸発乾燥法では液体の表面張力で収縮し多孔性が失われるため,超臨界状態の二酸化炭素を用い,ゲルの液体を置換除去する超臨界乾燥法が採用されているが,これには高圧を必要とし設備の大型化が困難でコストダウンも難しかった.研究チームは,これまで難しかった常圧蒸発乾燥法の改良によるCNF液体ゲルの脱水に取り組んできた.カルボキシル基を持つセルロースを水に分散して高剪断力を与えてCNF(幅2~3nm)とし,塩化アルミニウムを加えてゲル化させる.ゲルの水分はエタノールを経てヘキサンに置換し,乾燥条件を適切に制御しつつ23℃ないし65℃のオーブンで乾燥するとCNF同士のイオン結合力で収縮が抑えられ,多孔性のキセロゲルが得られる.キセロゲルの作成に用いられたゲルのCNF含量は0.5~2.0wt%である.このキセロゲルは,CNFのイオン的結合力で強固なネットワークを形成し,高い機械的強度を有する.本研究では,蒸発乾燥法で得た厚さ数mmの板状キセロゲルのさまざまな機械的特性が明らかにされた.それによると,空隙率はおおよそ80%,比表面積は400~500m2g-1に達し,高い機械的強度(圧縮強度:ヤング率170MPa/応力10MPa,引張強度:ヤング率290MPa/応力8MPa)が得られた.この強度であれば幅10mm厚さ2mmの試験片で10kgの錘でも持ち上げられる.また,軟質発泡ポリマーと同じ程度の熱伝導性(0.06~0.07Wm-1K-1)と曇りガラス程度の光透過性も有している.光透過性は,キセロゲル表面を研磨して平滑にすることで1.5倍程度向上する.さらにこのキセロゲルには,CNFの保有するカルボキシル基の対イオンであるアルミニウムが,水酸化アルミニウムとして存在し,炎に接すると吸熱的な脱水反応が生じるため燃焼が継続せず自己消火する特性がある.

 上記のように,本研究で得られたCNF多孔体は,木材を原料としながら高い断熱性,自己消火性と機械的強度を有しており,バイオマス由来の採光可能な断熱材として高い付加価値が期待される.

(注)Wataru Sakuma, Shunsuke Yamasaki, Shuji Fujisawa, Takashi Kodama, Junichiro Shiomi, Kazuyoshi Kanamori, and Tsuguyuki Saito, "Mechanically Strong, Scalable, Mesoporous Xerogels of Nanocellulose Featuring Light Permeability, Thermal Insulation and Flame Self-Extinction", ACS Nano, 2021, Vol. 15, No. 1, pp. 1436-1444, DOI: 10.1021/acsnano.0c08769; Publication Date: January 6, 2021