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短パルス・高ピーク出力動作可能な新しいフォトニック結晶レーザーの開発に成功 ~超微細加工や高精度光センシング,バイオイメージングなどに応用可能~

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),京都大学,国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)は2021年3月26日,NEDOが進める「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」において,京都大学大学院工学系研究科の野田 進教授らの研究グループが短パルス(数ps)かつ高出力(数10~100W以上)で動作可能なフォトニック結晶レーザーの開発に成功したと発表した.なお,レーザーの核となるフォトニック結晶構造は,内閣府が実施しQSTが管理法人を務める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の成果を活用して開発された.本成果は,英国科学誌Nature Photonicsに掲載された(注).

 短パルス・高ピーク出力のレーザー光源は,製造現場での超精密加工や自動運転車向け光測距(LiDAR),さらにはバイオ分野での高分解イメージングを実現する鍵技術である.特に小型で安価な半導体レーザーでの短パルス高出力動作は,応用システムの大幅な小型化や低コスト化につながる.半導体レーザーを短パルス発振するには,レーザー内部に光の増幅領域だけでなく吸収領域を設け,レーザー光の吸収が飽和するとパルス発振する受動Qスイッチング法がある.しかし,従来の半導体レーザーでは,大面積で単一横モード動作を維持することができず,数10~100W以上のピーク出力をもつ短パルス動作は困難だった.

 本研究グループは,独自のフォトニック結晶レーザー技術を用いて短パルスかつ高出力動作を同時に実現可能な新しいコンセプトを提案し,その開発・実証に成功した.フォトニック結晶レーザーとは,微小な格子点が2次元的に周期的に並んだナノ構造体(フォトニック結晶)を配置した面発光型のレーザーであり,大面積での単一横モード動作を実現することが出来る.新提案のフォトニック結晶レーザーは,n-GaAs基板上にn-AlGaAsクラッド層,活性層,GaAsフォトニック結晶層,p-AlGaAsクラッド層,リング状裏面電極を積層した構造である.裏面電極を同心円状の複数の電極にすることで,p-AlGaAsクラッド層には同心円状の光増幅領域の周囲に同心円状の吸収領域を配置する.Qスイッチング動作による短パルス高ピーク出力レーザー光は,積層構造の垂直方向にn-GaAs基板を通過して放射される.

 実際に試作したフォトニック結晶レーザーでは,レーザー発振領域の直径を400μmまで拡大し,リング状の吸収領域を2つ設けた(幅8μm,直径128μm/264μm).また広い発振領域でも単一横モード発振が得られるように,2重格子フォトニック結晶構造を採用した.本試作デバイスに直流電流 3.0Aを注入した場合,発振波長935nmでパルス幅35ps,ピーク出力約20Wの短パルス・高ピーク出力レーザー発振(パルス間隔0.9ns)が得られた.この結果を基に,利得領域の直径を1mmΦまで拡大し,吸収領域の数を3つに増やしたデバイスを設計すると,直流電流30Aを注入して,パルス幅40ps,ピーク出力300W級高ピーク出力発振が予測される.また,ns程度の短い時間幅の電流注入により駆動すると,この出力を任意のタイミングで出射できる. さらに,増幅領域の材料や厚さの最適化により,kW級の出力も期待される.

 今後は,フォトニック結晶レーザーのさらなる出力向上(kW 級)や,高反射金属や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の微細加工応用を見据えて,発光波長の短波長化(青色等)にも取組むとしている.

(注)R Morita, T. Inoue, M. De Zoysa, K. Ishizaki, and S. Noda, "Photonic-crystal lasers with two-dimensionally arranged gain and loss sections for high-peak-power short-pulse operation", Nature Photonics, (2021), DOI: 10.1038/s41566-021-00771-5; Published: 04 March 2021