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β型酸化ガリウム結晶の有機金属気相成長に成功! ~次世代パワーデバイスによる脱炭素社会実現を加速~

 東京農工大学(農工大),気相成長株式会社,及び大陽日酸株式会社は2021年4月1日,農工大 大学院工学研究院応用化学部門の熊谷 義直 教授らが,気相成長株式会社,及び大陽日酸株式会社と共同で,次世代パワーデバイス用半導体材料として注目されるβ型酸化ガリウム(β-Ga2O3)結晶の有機金属気相成長(MOVPE)法における化学反応メカニズムを世界で初めて解明し,見出された最適成長条件で高純度のβ-Ga2O3結晶のMOVPE成長を実証した,と発表した.本研究の一部は科学研究費補助金・新学術領域研究の支援を受け,成果は英文学術誌Japanese Journal of Applied Physics (JJAP)で公開された(注).

 地球環境維持,温室効果削減に向け,脱炭素社会に向けた政策が推進されるようになった.化石燃料を用いない再生エネルギー電力の活用・拡充が求められ,送配電等の電力を制御するパワー半導体デバイスの開発・高性能化は喫緊の課題となっている.パワーデバイスの性能限界は,エネルギーギャップ等の材料物性で決まるため,既に上市されているシリコン(Si)よりもエネルギーギャップの大きい炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)の利用に向けた研究開発が進んでいる.さらに,β-Ga2O3結晶を用いると,パワーデバイスの電力損失がSiに比べ約3000分の1になると見込まれる.熊谷教授らはGa塩化物を用いるハライド気相成長(HVPE)法によりβ-Ga2O3高純度結晶の高速成長技術を確立したが,HVPE成長層は複雑なデバイス構造製作に限界があった.そこで,1原子層精度で膜厚を制御することが可能な,有機金属化合物ガスを原料に用いるMOVPE結晶成長に挑戦した.しかし,有機金属化合物と酸素の反応性が高いため,また炭素不純物の混入も不可避とされ,酸化物結晶のMOVPEは検討もされていなかった.

 これに対し,熊谷教授らは,化学気相成長用原料等を事業とする気相成長株式会社およびMOVPE装置メーカーの大陽日酸株式会社と共に,有機金属化合物(トリエチルガリウム:TEG,Ga(CH3)3)ガスと酸素(O2)ガスの反応メカニズム解明,β-Ga2O3結晶成長に適した反応条件探査を行い,β-Ga2O3のMOVPE成長に成功した.熱力学解析により,供給するⅥ族(O)とⅢ族(Ga)の比(供給Ⅵ/Ⅲ比)が7以上になるとH2とCOが共に減少し,H2OとCO2のみになって炭化水素とH2は完全燃焼し,不純物の炭素(C)を含まない高純度β-Ga2O3成長層が得られると予想された.そこで,TEGとO2の各原料ガス供給系を有する減圧MOVPE装置を構築し,解明された反応メカニズム・最適反応条件を用いて成長実験を行ったところ,成長反応温度900℃において成長速度1.4μm/hで高純度なβ-Ga2O3結晶の成長に成功した.

 化学反応メカニズム解明により,高品質なβ-Ga2O3のMOVPE成長が可能となった.高い省エネ効果を有するβ-Ga2O3パワーデバイスが実用化され,脱炭素社会への動きが加速されることを期待している.

(注)Ken Goto, Kazutada Ikenaga, Nami Tanaka, Masato Ishikawa, Hideaki Machida, and Yoshinao Kumagai, "Thermodynamic and experimental studies of β-Ga2O3 growth by metalorganic vapor phase epitaxy", Japanese Journal of Applied Physics, 2021, Vol. 60, No. 4, p. 045505, DOI: 10.35848/1347-4065/abec9d; Published 29 March 2021