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光と分子を使って生きた細胞内の蛋白質を自在に連結 ~疾患の分子機構解明につながるオプトケミカルジェネティクス~

 東北大学は2021年4月8日,同大学多元物質科学研究所の小和田 俊行 助教,水上 進 教授らの研究グループが,大阪大学大学院工学研究科の菊地 和也 教授らと共同で,生きた細胞内の蛋白質を光と低分子を使って共有結合で連結する技術を開発し,蛋白質の細胞内局在を時空間的に光操作できることを示したことを発表した.本研究は,科学研究費補助金,上原記念生命科学財団,武田科学振興財団,アステラス病態代謝研究会,東京生化学研究会,興和生命科学振興財団,中谷医工計測技術振興財団の支援を受けており,本成果はAngewandte Chemie International EditionにHot paperとして公開された(注).

 細胞内の多くの蛋白質は,他の分子との相互作用や細胞内局在によりその機能を果たすことが多い.その相互作用や局在位置を自在に操作することができれば,蛋白質や細胞の機能制御が可能になるわけで,近年ではオプトジェネティクスという光応答性蛋白質を利用した神経など細胞機能の光制御の研究が行われている.一方,蛋白質の制御に化学的蛋白質二量化法(CID)があり,標的蛋白質にタグ蛋白質を連結させておき,タグ蛋白質に選択的に結合する二量化剤の添加により,標的蛋白質の二量体を形成する.このCIDは二量化剤に光応答性分子を用いて生体機能の光制御技術の一つとなる,低分子を利用した光駆動型の化学的蛋白質二量化法(photo-CID)に高機能化された.しかし,これまで報告されたphoto-CIDは,いずれも各蛋白質間を非共有結合でつなぐもので,二量体の形成が蛋白質や低分子二量化剤の濃度に影響を受けるなどの問題があった.そこで今回,光照射によって細胞内の蛋白質を共有結合で連結する技術を開発した.

 共同研究チームは,これまでに独自に開発してきた蛋白質ラベル化技術(BL-tag技術:細胞内蛋白質に機能性分子を修飾する技術)と,このBL-tag蛋白質のリガンド(この蛋白質に対して特異的に結合する物質)であるβラクタム抗菌薬を用いて光活性化型のBL-tagリガンドを設計した.βラクタム抗菌薬はカルボキシ基を有しており,これがBL-tag蛋白質のアミノ酸残基と水素結合で相互作用する.そこで,このカルボキシ基に光解離性保護基を導入することで,光非照射時にはBL-tag蛋白質に結合しないが,光照射によって保護基が脱離するとBL-tagに共有結合する光活性化型のBL-tagリガンドが実現する.実際に細胞表面にBL-tagを発現させ,リガンドに蛍光色素を修飾することで,光照射による蛍光色素ラベリングを確認した.

 続いて,光活性化型BL-tagリガンドをHaloTagリガンドと適度な長さのリンカーでつないだ光二量化剤CBHDを開発し,これを用いて細胞内の蛋白質の光照射による二量化に成功した.連結は,ヒト由来細胞の細胞質にBL-tagと緑色蛍光タンパク質との融合体,細胞膜の内側にHaloTagと赤色蛍光タンパク質との融合体をそれぞれ発現させ,培養液にCBHDを添加すると,CBHDは速やかにHaloTagと結合して細胞膜上に局在する.次に光照射を行うと,CBHDのBL-tagリガンドが活性化し,BL-緑色蛋白質融合体は次々と細胞膜へと集積することが蛍光顕微鏡で確認された.なお,蛋白質の核やミトコンドリア外膜への光移行,レーザー光による細胞内微小領域への移行,二量化蛋白質が共有結合であることなども確認した.

 本成果は,世界初のphoto-CID技術であり,蛋白質の二量化,多量化や細胞膜或いは核への移行に関わる細胞内シグナル伝達経路を自在に光走査する技術への展開が考えられる.

(注)T. Kowada, K. Arai, A. Yoshimura, T. Matsui, K. Kikuchi, and S. Mizukami, "Optical manipulation of subcellular protein using a photoactivatable covalent labeling system", Angewandte Chemie Interna-tional Edition, Early View, DOI: 10.1002/anie.202016684; published: 28 February 2021