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ナノバブルの安定化と作用メカニズムを解明 水と空気を利用した「人」と「環境」に優しい工学技術を確立

 東北大学は2021年4月28日,同大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)の高橋 正好 教授らの研究グループが,強力な殺菌作用を持つナノバブルの安定化メカニズムとその作用機序を明らかにした,と発表した.本研究は,独立行政法人 学術振興会(JSPS)などの支援を受け,成果は米国化学会刊行のLangmuir誌で公開された(注).

 水にガスを吹き込むと気泡(バブル)ができる.気泡は水中を急速に上昇して表面でパチンと弾けて消える.一方,髪の毛の太さ程度のマイクロバブルはゆっくりと上昇しながら,さらに小さくなって表面に行き着く前に消滅する.弾けて消滅するときにバブルのエネルギーを放出してラジカルが発生するので,汚染水の浄化,半導体ウエハの洗浄,湖や海域の環境改善などへの応用が進められている.このため経済産業省は,粒径が100µm未満の気泡であるファインバブル応用技術の持続可能な開発目標(SDGs)への貢献評価の国際標準化を進めた(https://www.meti.go.jp/press/2021/04/20210427002/20210427002.html).高橋教授らは,マイクロバブルの応用に続き,光の波長より小さいナノバブルと呼ばれる極微小気泡を利用して農業や医療,感染症予防などの技術開発に取り組んでいる.ナノバブルは,水中で長期間にわたって安定に存在させることができ,気泡中に酸素(O2)を内包させて動植物に対する活性効果,オゾン(O3)を内包させて殺菌作用を持たせるなど,様々な反応・作用を起こすことができる.しかし,その実体の把握や作用メカニズムの解明は遅れていた.

 そこで高橋教授らは,ナノバブルの形態とラジカル生成の把握を試みた.ナノバブルは微量のイオン(ここでは硫酸鉄FeSO4添加)を含む水にガスを吹き込んで50µm以下のマイクロバブルを生成させ,1日以上放置するとバブルは水に溶けて縮み,450nm以下のナノバブルができる.イオンが泡の表面に集まって無機質の薄い殻を作るので,生成したナノバブルは安定で,少なくとも6ヶ月は状態を保持する.ナノ粒子の形態は原子間力顕微鏡(AFM)で調べられるが,水中を浮遊している物質のAFM観察は難しい.これに対し研究グループは,ナノバブルがマイナスに帯電していることを利用し,プラスに帯電させたマイカ基板に静電気力で引き付けて,観察に成功した.この結果,ナノバブルは真球に近い形状をしており,その大きさは50nmよりも小さい(分布の最頻値42.5nm)ことを明らかにできた.次に6ヶ月保持したナノバブルを含む水に塩酸を添加して電子スピン共鳴(ESR)測定を行なった.マーカーの信号の間に4つの共鳴ピークが見出され,塩酸添加によりナノバブルが弾けて水酸基ラジカルが生成したことが確かめられた.

 ナノバブルの形態,刺激によって弾けて活性種が生成されることが明らかになった.水と空気で作るナノバブルは,「人」と「環境」に優しく,農業や医療,感染症の予防などへの応用が期待されるとしている.

(注)Masayoshi Takahashi, Yasuyuki Shirai, and Shigetoshi Sugawa, "Free-Radical Generation from Bulk Nanobubbles in Aqueous Electrolyte Solutions: ESR Spin-Trap Observation of Microbubble-Treated Water", Langmuir, 2021, Vol. 37, No. 16, pp. 5005-5011; doi: 10.1021/acs.langmuir.1c00469; Publication Date: April 15, 2021