ナノテク情報

物性・原理

半導体量子ビットの確率的テレポーテーションに成功 ~半導体量子コンピューターの大規模化に向けて前進~

 国立研究開発法人理化学研究所(理研),同 科学技術振興機構(JST),豪州シドニー大学,独国ルール大学ボーフム校は2021年5月6日,理研創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの樽茶 清吾グループディレクターら,シドニー大学Stephen. D. Bartlett教授,ルール大学ボーフム校Andreas Wieck教授らの国際共同研究グループが,半導体量子ドット中の電子スピン量子ビットを用いた「確率的テレポーテーション」に成功したと共同発表した.本研究はJST戦略的創造研究推進事業(CREST)他の支援を受けて実施され,成果は量子情報分野の科学誌“npj Quantum Information”に掲載された(注).

 量子力学を応用して情報処理を行う量子計算が注目されている.量子計算における単位素子は「量子ビット」と呼ばれ,中でも半導体上に形成した量子ドット中の電子スピンを用いる半導体量子コンピューターは,情報保持時間が長く,その実用化が期待されている.半導体量子コンピューターのこれまでの研究は,2量子ビットを用いた基本的な原理検証を中心に行われてきた.次の段階として,「量子テレポーテーション」といった三つの量子ビットを使うアルゴリズムの実現が望まれていた.量子テレポーテーションとは,ある量子ビットの量子状態を遠隔地にある量子ビットに転写するアルゴリズムで,「量子もつれ」という量子力学特有の非局所的な物理現象を用いる.

 本研究グループは,GaAsとAlGaAsを用いた半導体基板上に三重量子ドット配列構造を作製し,各量子ドット中に単一電子スピンを閉じ込めることで3量子ビット系を試作した.量子テレポーテーションでは三つの量子ビットを,転写したい情報を持つ入力ビット,情報が転写される出力ビット,前述の二つのビット間で量子相関を伝達する補助ビットとして機能させる.本研究では,ドット配列上端に位置する入力ビットの状態を下端に位置する出力ビットへ転写することを試みた.

 量子テレポーテーションの実験は,先ず下端の量子ドットに補助ビットと出力ビットを用意すると,二つの量子ビットが一つの量子ドットを占有するため,量子ビット間に量子もつれが生成される.次に,補助ビットを入力ビットの量子ドットへ移動させて量子もつれが検出成功となれば,入力ビットの状態が出力ビットへと転写される.ただし,補助ビットと入力ビット間の量子もつれの検出の成功は確率的になるため,出力が入力と一致する確率は1より小さくなり,「確率的量子テレポーテーション」と呼んでいる.

 さまざまなスピン状態の入力ビットを用意して量子テレポーテーションの操作を行い,出力ビットの状態を測定し,出力ビットと入力ビットの状態を比較したところ,入力から推定される出力の状態と実際の測定で得た出力に正の相関があり,入力ビットの状態が出力ビットへ転写されていることを示していた.量子テレポーテーションの操作エラーは量子ドット間の不均一磁場によることが判明しており,量子ドットに近接して適切な微小磁石を配置することで磁場を均一にして,エラーを低減できるとしている.

 本成果により,半導体量子コンピューターの大規模化に向けた研究開発が一層進むと期待される.

(注)Y. Kojima, T. Nakajima, A. Noiri, J. Yoneda, T. Otsuka, K. Takeda, S. Li, S. D. Bartlett, A. Lud-wig, A. D. Wieck & S. Tarucha, "Probabilistic teleportation of a quantum dot spin qubit", npj Quantum Information, Vol. 7, Article number: 68 (2021), DOI: 10.1038/s41534-021-00403-4; Published: 06 May 2021