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光触媒で空気中に浮遊する"新型コロナウイルス"の感染性を消失させることに成功 ~「Withコロナ」の社会の実現と新たな社会的脅威「変異ウイルス」への対抗策を提示~

 東京大学は2021年5月21日,同大学大学院農学生命科学研究科の間 陽子 特任教授らが,光触媒で空気中に浮遊する"新型コロナウイルス"の感染性を検出限界以下まで消失させることに成功した,と発表した.記者発表には,カルテック株式会社,国立研究開発法人 理化学研究所,および日本大学医学部のメンバーが参加し,カルテック社は同社の光触媒技術を利用したと,そのニュースリリースに記している.本成果は,スイスのオープンアクセス専門の出版社MDPI刊行のViruses誌で公開された(注).

 2019年末以来世界的に猛威を振るい続ける新型コロナウイルス感染症COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2ウイルスは,汚染された物体の表面やエアロゾルを介して感染を広める.感染源とされた環境は次亜塩素酸などにより消毒するが,有毒のため人を退去させて行う.生活空間のままに,環境を消毒したい.一方,光触媒は抗菌・抗ウイルス効果を持ち,最近,紫外線を用いた酸化チタ ン(TiO2)光触媒はSARS-CoV-2 を不活化することが見出されたが,その詳細なメカニズム,可視光適用の可能性は明らかでなかった.

 間特任教授らは,3cm角の光触媒をコーティングしたガラスシートにウイルス液を2ml滴下し,波長405nmの可視光を照射し,液体中のウイルスが120分で99.9%不活化することを見出した.カルテック社のHPによると,従来の光触媒はアナターゼ型結晶系TiO2を用いて励起波長388nm以下だが,同社の光触媒はルチル型柱状結晶を採用し励起波長413nm以下である.このため,光触媒による不活化に,可視光(405nm)のLED が使えた.次に,120L(40×50×60cm3)のアクリルボックス中にエアロゾル化したウイルスを噴霧し,ボックス内の空気を光触媒搭載の空気清浄機により0分から20分間で浄化して回収し,ウイルス感染価を測定した.その結果,光触媒に405nmの光を照射すると感染価は20分の浄化で約1/1000に低下することが分かった.

 さらに研究グループは,不活化のメカニズムを明らかにしようと電子顕微鏡観察を行った.光触媒反応によってウイルス粒子の数が減少し,サイズが大きくなり,粒子表面のSタンパク質の数が減少していた.SARS-CoV-2はSタンパク質が細胞の表面の受容体と結合することで,細胞内に侵入する.ウイルスは細胞内でRNAを放出し,そのRNAを翻訳し,ウイルスタンパク質を合成して増殖する.不活化のメカニズムは次のように考えられた.まず,光触媒でウイルス粒子自体を破壊する.また,光触媒はウイルスタンパク質,特にSタンパク質を分解しウイルスの細胞内への侵入を阻害する.さらに,光触媒によるウイルスRNAの損傷は,ウイルスを不活化する.
 
 研究グループは本研究が,「Withコロナ」社会におけるクリーンな空間の構築,変異株や新たな未知のウイルス感染症克服の道を拓くものと期待している.

(注)Ryosuke Matsuura, Chieh-Wen Lo, Satoshi Wada, Junichi Somei, Heihachiro Ochiai, Takeharu Murakami, Norihito Saito, Takayo Ogawa, Atsushi Shinjo, Yoshimi Benno, Masaru Nakagawa, Masami Takei, and Yoko Aida, "SARS-CoV-2 disinfection of air and surface contamination by TiO2 photocatalyst-mediated damage to viral morphology, RNA, and protein", Viruses, 2021, Vol. 13, No. 5, p. 942, DOI: 10.3390/v13050942; Published: 20 May 2021