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原子精度で定義されたナノ物質を正確に配置 ~ナノテクノロジーを超える技術への道を拓く~

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研)は2021年5月25日,開拓研究本部 加藤ナノ量子フォトニクス研究室の大塚慶吾 訪問研究員(研究当時),加藤雄一郎 主任研究員らが,カーボンナノチューブ(CNT)をはじめとする高品質のナノ材料を精密に配置する手法を開発した,と発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金,総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)などの支援を受けて行われ,成果はNature Communicationsのオンライン版に掲載された(注).

 CNTは,六角形に敷き詰められた炭素原子(ベンゼン環)のシート(グラフェン)を直径1~3nm程度の筒状に巻いたもので,直径や巻きのねじれ方(カイラリティ)によりバンドギャップの有無やその大きさがさまざまに変化し,特に,室温で近赤外領域での単一光子源として機能することから,量子情報処理技術への応用が期待されている.しかし,CNTのカイラリティはランダムに決定づけられるため,所望特性のCNTを自在に合成することは難しく,合成されたCNTにはさまざまなカイラリティのものが混在している.また,フォトニクス用途では,CNTの光物性がCNTの表面環境に大きく影響を受けることもあり,デバイス作製上の課題となっている.すなわち,高性能なナノサイズのフォトニクスデバイス作製には,所望の特性を持つCNTを所定の位置に正確に,かつ清浄な状態で配置する技術が必要とされている.

 本研究で研究グループは,多数のCNTから所望の発光特性を持つ1本のCNTを選別し,適切な場所に配置する技術を開発した.3つのベンゼン環が平面状に並んだ構造を持つアントラセンはベンゼン環を持つ分子との間に強い分子間力が働くので,その単結晶を透明ゴムスタンプに吸着させ,これを用いて石英基板上に成長したCNTを拾い上げ,CNT一本ごとの発光を測定して原子精度の選択を行い,所望の発光特性を有するCNTをアントラセンとともにデバイスとなる基板の所定位置に転写する,という手法である.この操作を透明ゴムスタンプ越しに顕微鏡で観察しながら行う.転写後100℃程度に加熱するか,数日放置するとアントラセンは昇華し,残された清浄なCNTが所定の位置に配置される.研究グループは,シリコン基板上に彫られた巾5μmの溝に長さ100μm程度のCNTを転写して,孤立したCNTを溝に架橋させることに成功した.このCNTにレーザー光を照射して発光させると,CNTの宙に浮いた架橋部は,基板に接する部分に比べ約250倍の強度で発光した.発光のピーク波長は,架橋部で約1380nm,基板に接する部分で約1450nmであった.観測された発光強度は,溝に架橋された状態で合成された直後のCNTの発光強度に匹敵するという.本技術を応用し,シリコンで出来たフォトニック結晶光共振器に厚さ30nm程度の六方晶窒化ホウ素を挟んでCNTを中空に保持して共振器と結合するように配置した.これにより,波長 1514nmに,カーボンナノチューブと共振器との結合に由来する鋭い発光スペクトルが得られた.

 本研究の成果はCNTに留まらず,ナノテクノロジーを越えた原子レベルから機能設計して築き上げるという新たな技術の開拓に役立つと期待される.

(注)Keigo Otsuka, Nan Fang, Daiki Yamashita, Takashi Taniguchi, Kenji Watanabe, and Yuichiro K. Kato, "Deterministic transfer of optical-quality carbon nanotubes for atomically defined technology", Nature Communications, Vol. 12, Article number: 3138 (2021), DOI: 10.1038/s41467-021-23413-4; Published: 25 May 2021