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量子コンピューター実機を用いた有機EL発光材料の励起状態計算に世界で初めて成功 ~有機EL発光材料性能予測に関する研究成果がNature専門誌に掲載~

 三菱ケミカル株式会社(三菱ケミカル),日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM),JSR株式会社(JSR)および慶應義塾大学(慶応大)は2021年5月26日,慶應大量子コンピューティングセンターからIBMの量子コンピューター実機にアクセスし,有機 EL 発光材料の励起状態エネルギー計算に成功したと共同発表した.本研究は文部科学省の光・量子フラッグシッププログラム(Q-LEAP)の支援を受けて実施され,成果はNature Research出版社の専門誌npj Computational Materialsに掲載された(注).

 コンピューターを用いた量子化学計算において,分子の励起状態を高精度で計算することは大きな課題である.従来は計算が不可能とされていた大きな分子サイズの物質であっても,量子コンピューターを用いることで高精度な計算が可能になると期待される.しかし,量子コンピューターによるベンチマークテスト計算の多くはH2やLiHなど簡単な構造の分子に留まっており,また量子コンピューター実機の操作エラーの影響を受けるために,実機では望ましい計算精度は得られないという課題があった.

 本研究グループは,量子コンピューターを用いてTADF(Thermally Activated Delayed Fluorescence,熱活性化遅延蛍光)材料の励起状態エネルギーの計算を行い,高精度の実機計算に取り組んだ.TADF材料は最低一重項励起状態(S1)と最低三重項励起状態(T1)のエネルギー準位が近い(数kcal/mol)ため,T1状態の励起子が熱運動によりS1状態に遷移すれば,理論上100%発光効率の有機EL材料が得られる.

 今回,三菱ケミカルが開発した3種類のTADF材料(PSPCz: 9-[4-(phenylsulfonyl)-phenyl] 9H-carbazoleほか) の励起状態計算を行った.計算は理想的なエラーなしの量子コンピューターシミュレータと,現実の IBM 量子コンピューター実機で実施した.シミュレータの計算結果 (S1とT1のエネルギーギャップ)は実験値とよい相関 (相関係数=0.99) を示すが,実機の計算結果は実機ノイズの影響を受けて実験値と相関性のない結果であった.この実機ノイズによる影響を取り除くために,量子系の一部の記述を特定の実験の測定結果から再構築する"量子トモグラフィー"という技術で,エラーを低減する手法を考案した.具体的には,まず"量子トモグラフィー"を用いて実機の量子状態を測定し,次にその測定結果から実機のエラーを推定,最後にこの推定を用いて計算結果を修正する.この手法によって,厳密解と最大88mHa(1.0Hartree=627.7kcal/mol)の計算誤差は約4mHaに改善でき,実験値とよい相関の計算値が得られた.

 今後は開発したエラー低減の手法をさらに発展させ,より大きいサイズの分子軌道の計算を可能にし,量子コンピューターによる材料特性予測を,多くの実用材料に展開する,としている.

(注)Q. Gao, G. O. Jones, M. Motta, M. Sugawara, H. C. Watanabe, T. Kobayashi, E. Watanabe, Y. Ohnishi, H. Nakamura & N. Yamamoto, "Applications of quantum computing for investigations of electronic transitions in phenylsulfonyl-carbazole TADF emitters".  npj Computational Materials, Vol. 7, Article number: 70 (2021), DOI: 10.1038/s41524-021-00540-6; Published: 20 May 2021