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物性・原理

ダイヤモンド量子センサのスピン情報の電気的読み出しに成功 ~小型・集積化に繋がり,量子センサの社会実装を加速する~

 東京工業大学(東工大)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は2021年6月26日,東工大 工学院 電気電子系の岩﨑 孝之准教授と波多野 睦子教授,産総研 先進パワーエレクトロニクス研究センタ 新機能デバイスチームの加藤 宙光主任研究員,牧野 俊晴研究チーム長らの共同研究グループが,量子センサとして機能するダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)センタのスピン情報を,ダイヤモンドデバイスを用いて電気的に検出することに成功した,と発表した.本研究は,文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププロジェクト(Q-LEAP)「固体量子センサの高度制御による革新的センサシステムの創出」などの支援を受けて行われ,原著論文は米国物理学協会刊行誌Applied Physics Lettersに掲載された(注).

 Society 5.0のフィジカル空間とサイバー空間を繋ぐのに物理情報をインターネット情報に変換するセンサは重要な役割を果たす.スピン状態の操作など量子力学を活用した量子センサは,ナノの生命世界の極限計測に期待され,生体磁場など微弱な磁場の検出にダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)センタの量子センサ応用が試みられている.これには,従来,NVセンタが発する蛍光の検出が用いられているが,光学素子による信号の減衰や,素子数の増加による大型化により,性能改善と集積化の両立が難しかった.一方,金属-ダイヤモンド(絶縁体)-金属のMIM構造を用いた電気的検出が試みられたが,より高感度で小型なセンサシステム構築に発展可能なデバイス構造が求められていた.

 これに対し,研究グループは,NVセンタを内包する横型のダイヤモンドp-i-nダイオードを作製し,光で励起したスピンの電気的検出を実証した.ダイヤモンド(111)基板上にマイクロ波プラズマ気相化学蒸着(MPCVD)でi層を,その上に5μmの間隔を空けてp+およびn領域を選択的に成長させ,i層に窒素のイオン打ち込み,アニールを行って,NVセンタ内包p-i-nダイオードを作製した.i層のp領域に近い点に波長532nmのレーザー光を照射するとn領域から光強度(0~10mW)に応じた電流(0~800pA)が取り出された.p-i-n構造には~4.5Vの内部電位差が存在するので,レーザー光によりNVセンタに励起された光キャリアが電流となって検出されたものである.

 光電検出磁気共鳴(PDMR)測定を行うと,NVセンタに誘起されたスピン状態間の遷移によるマイクロ波吸収のための光電流低下が観測され,スピンの生成が確認された.この吸収ピークは磁場の印加によって二つに分かれることも確認された.この分離現象は生体内の微小磁場検出に用いられる.さらに,レーザー照射点を変えた時の光電流変化を測定することで,NVセンタから発生する光キャリアの拡散長の測定に世界で初めて成功した.拡散長は1μm程度で,内包するNVセンタの濃度が高いほど短い.この知見は固体量子センサの集積化の設計において重要となるものである.

 本研究は,ダイヤモンド量子センサのスピン情報電気的検出を可能にし,集積固体量子センサ開発に道を開くものとしている.

(注)T. Murooka, M. Shiigai, Y. Hironaka, T. Tsuji, B. Yang, T. M. Hoang, K. Suda, K. Mizuno, H. Kato, T. Makino, M. Ogura, S. Yamasaki, M. Hatano, and T. Iwasaki, "Photoelectrical detection of ni-trogen-vacancy centers by utilizing diamond lateral p-i-n diodes",  Applied Physics Letters, Vol. 118, p. 253502 (2021), DOI: 10.1063/5.0055852; Published Online: 25 June 2021