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軟X線顕微分光法による接着因子の可視化に成功 ~接着界面の学理構築に貢献~

 国立研究開発法人理化学研究所(理研)と広島大学は2021年6月29日,理研放射光科学研究センター 石川 哲也センター長ら,広島大学大学院先進理工系科学研究科の高橋 修准教授らの共同研究グループが,大型放射光施設SPring-8の高輝度軟X線ビームを用いた軟X線顕微分光法により,熱可塑性樹脂と熱硬化性エポキシ接着剤の接着界面における接着因子の可視化に成功した,と発表した.本研究は,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業などの支援を受け,成果はCommunication Materials誌に掲載された(注).

 自動車や航空機は,省エネやCO2排出削減を目指し軽量化が求められており,次世代モビリティには,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のような先端複合材料の採用や,マルチマテリアル化が有望で,部材接合に接着剤の活用が期待されている.接着現象にはさまざまな要因が関与し,接着強度発現については,マクロな視点からの知見が多く蓄積されている.しかし,ミクロな視点で接着メカニズムに迫る分子間力,イオン結合・水素結合,共有結合などの化学的結合や,機械的なアンカー効果など分子レベルでの理解は未だ充分とは言えず,このことが接着強度試験で充分な強度を示しても,強度発現の科学的証明が足りないとして接着剤の積極的な採用に至らない一因となっている.これを解決するため,接着界面付近のマルチスケールな観察手法の開発が望まれていた.

 本研究で研究グループは,大型放射光設備SPring-8の軟X線を利用し,熱可塑性CFRPの母材に使われるPEEK樹脂とエポキシ接着剤(DGEBA-DDS)の接着界面の顕微分光観察を行った.試料は接着界面を2°の角度で斜め研磨し,界面領域と考えられる10nmの厚みを30倍程度に拡大露出した.PEEK表面には接着性向上のため,プラズマ前処理で-OH基や-COOH基が導入されており,蛍光X線でこれらの官能基が検知出来るよう,研磨面の-OH基のHをフッ素(F)に置換する処理が行われた.研磨面を光学顕微鏡で観察すると,接着剤側の表面が,サブmmのスケールで荒れた状態にあることが観察された.次いで,軟X線顕微分光法(軟X線顕微鏡で蛍光X線を分光分析)による元素分布可視化で,接着剤由来の窒素(N)とPEEK由来のFが共存する領域(Ⅰ),NもFも存在しない領域(Ⅱ),Fだけが存在する領域(Ⅲ)というμmスケール三領域の存在が分かった.Ⅰは接着接合が成立,Ⅱはプラズマ処理の効果が及ばず試料研磨の際にPEEK内部から破損,Ⅲは接着界面で破壊した領域と考えられる.さらに,X線吸収分光法(XAS)により,界面近傍におけるエステル結合を計測し,スペクトルのエネルギーシフトから,界面をまたぐエステル結合の存在,すなわち分子スケールにおいてPEEKと接着剤間で共有結合の生成が検出された.

 本研究は,マルチスケール観察への軟X線顕微分光法の有用性を示すもので,今後,研究グループは,高分解能化,高感度化を進め,斜め研磨を用いず,より効率的な垂直断面の直接観察を目指すという.

(注)H. Yamane, M. Oura, O. Takahashi, T. Ishihara, N. Yamazaki, K. Hasegawa, T. Ishikawa, K. Takagi, and T. Hatsui, "Physical and chemical imaging of adhesive interfaces with soft X-rays", Communications Materials, Vol. 2, Article number: 63 (2021), DOI: 10.1038/s43246-021-00168-5; Published: 11 June 2021