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重要な情報だけを検出・記憶する脳型光記憶素子を発見 ~脳の様に動く新型光コンピュータやカメラの開発に期待~

 名古屋大学は2021年7月2日,同大学大学院工学研究科の植田 研二准教授らの研究グループが,グラフェン/ダイヤモンド積層界面が,重要な光情報だけを選択的に記憶し不要な情報を忘却する,脳のように動く光記憶素子となることを新たに見いだしたと発表した.本成果は,オランダElsevier社の科学雑誌 Carbonにオンライン掲載された(注).

 人間の脳では神経細胞のつなぎ目であるシナプスが,外部刺激によって結合強度を変化させることで,情報の記憶・忘却が切り替わる.強い印象すなわち,刺激の大きな情報は長期記憶される一方,刺激の少ない情報は短時間記憶された後に忘れられる(短期記憶).こうした脳の記憶作用を模倣して,人工的に脳型記憶素子を作ることができないか,人間の脳を模した新型コンピュータに向けての挑戦的課題であった.

 この課題に対して研究グループは,無機炭素材料であるグラフェンとダイヤモンドを積層したグラフェン/ダイヤモンド積層界面が,重要な光情報のみを選択的に記憶し,不要な情報を忘却する脳型光記憶素子となることを発見した.グラフェンは界面に対して垂直に配向させ,炭素のsp2-sp3軌道間で界面を形成する.開発したグラフェン/ダイヤモンド素子は,光刺激を検出し電気抵抗値に変換すると共に,光刺激の強弱に応じて抵抗値の記憶保持時間が切り替わる,シナプスに似た特性を待つことが明らかになった.すなわち、一つの素子で人間の目と脳の機能を併せ持つ.シナプスでは電気的な刺激で結合強度変化が起こるのに対し,本素子では光刺激により結合強度変化が起こるため,画像などの光情報が直接検出され,重要度に応じて自律的に記憶・忘却されることが特徴である.さらに,このデバイスでは素子全てに同時に光が照射され,光検出・記憶動作が全素子で同時並列的に行われるので,高速動作が期待できる.

 実験では,グラフェン/ダイヤモンド素子6つを画素として用い,2×3型で配列した構造で,画像(文字パターン,IおよびL)の検出を試みた.Iの場合はI字のパルスを多数(12ヶ)照射して強い光刺激を与える形(重要な情報に対応)とし,Lの場合はL字のパルス光を少数(3ヶ)照射し弱い刺激を与える形(不要な情報に対応)とした.結果的にLパターンは記憶後すぐに忘却(短期記憶,τ=5.4s)されたのに対し,Iパターンは長時間記憶(長期記憶,τ=1558s~26min)されることが分かった.この結果は,グラフェン/ダイヤモンド素子配列構造がイメージセンサとして機能し,さらに光刺激の頻度に応じて光情報が選択的に記憶・忘却されることを意味する.

 グラフェン/ダイヤモンド接合界面が,重要な光情報のみを記憶し,不要な情報は忘却する脳型光記憶素子となることを見出した.本成果を発展せることで,センサ側で光情報を取捨選択して瞬時に記憶する新型イメージセンサなどの作製が可能となる.膨大な情報を自動で取捨選択し,重要な情報だけを検出・記憶,処理する新型光コンピュータや高性能カメラの開発につながると期待される.

(注)Y.Mizuno, Y.Ito, and K.Ueda, "Optoelectronic synapses using vertically aligned gra-phene/diamond heterojunctions", Carbon, Volume 182, September 2021, Pages 669-676 
DOI: 10.1016/j.carbon.2021.06.060; Available online 22 June 2021