ナノテク情報

ナノテク・材料

「超」高移動度,低電圧駆動できる有機半導体材料 ~結晶構造制御により高性能化~

 理化学研究所(理研)は2021年7月5日,理研創発物性科学研究センター創発分子機能研究チームのキリル・ブルガレビッチ特別研究員,瀧宮 和男チームリーダーらと,東北大学大学院 理学研究科化学専攻 川畑 公輔助教らの共同研究チームが,30cm2/Vsを超える極めて高いキャリア移動度,かつ低電圧で駆動できる有機半導体材料を発見したと発表した.本研究成果は,科学雑誌Advanced Materialsオンライン版に掲載された(注1).なお,本研究は,独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究(A)および公益財団法人 三菱財団自然科学研究助成の支援を受けて行われた.

 有機半導体材料は,軽量でフレキシブルな特性により,フレキシブルエレクトロニクスや環境エレクトロニクスへの応用が期待されているが,無機半導体材料に比べて,キャリア移動度が低いため,その応用範囲が限られてきた.従来の高移動度有機半導体のペンタセンやジナフトチエノチオフェン(DNTT),ベンゾチエノベンゾチオフェン(BTBT)誘電体の移動度は高々1~10cm2/Vs程度であった.

 共同研究チームは,移動度の向上には有機半導体の分子構造だけでなく,結晶中の分子配列が鍵を握るという認識の下,材料探索を行い,メチルチオ基(-SCH3)を有機半導体骨格中へ位置選択的に導入することで,結晶中での有機半導体分子の分子配列を制御できることを明らかにしている(注2).この成果に基づいて,ペリ縮合多環芳香族炭化水素であるピレン(六員環のベンゼン二つがー辺を共有して縮合した左右に並ぶ二環の中央上下の隣接する二辺に第三のベンゼンとして二辺を共有するペリ縮合と呼ばれる縮合をした二つの六員環を持つペリ縮合多環芳香族炭化水素と呼ばれる化合物)に四つのメチルチオ基が導入された既知の分子メチルチオピレン(MT-pyrene)に着目し,その構造と半導体特性を調査した.

 メチルチオ基導入前のピレンは,分子が二量体を形成しそれらがヘリンボーン(V字型を縦横に連続させた模様)様に充填したサンドイッチ・ヘリンボーン構造と呼ばれる電荷輸送には不適な構造であった.MT-pyreneでは結晶中においてメチルチオ基が分子間相互作用の方向性と強さに影響を与え,ピレンとは異なる「二次元π積層構造」(平面構造を持つπ共役分子がπ平面を重ねて積層する際,分子がずれて「レンガ塀」のように積み重なった構造)と呼ばれる分子配列へと変化することを見いだした.またMT-pyreneを半導体材料として有機電界効果トランジスタを作製したところ,ドレイン電圧-5Vで動作し,26個の素子の平均で32cm2/Vsの極めて高い移動度を示した.また,1.2Vのゲート電圧印加により,電流値が4桁上昇という良好なスイッチング特性を示した.移動度は温度低下と共に上昇するというバンド伝導の特徴を示している.その値は,一般の有機半導体分子で電荷が隣の分子に「跳び移る」ホッピング伝導で予測される移動度(~4.5cm2/Vs)よりも1桁程度高く,上記温度特性からもMT-pyreneの場合は結晶中を広がった波として伝播する「バンド伝導」であることが確認された.その高いポテンシャルによる応用展開が期待される.

(注1)Kazuo Takimiya, Kirill Bulgarevich, Mamatimin Abbas, Shingo Horiuchi, Takuya Ogaki, Kohsuke Kawabata, and Abduleziz Ablat, "Manipulation of crystal structure by methylthiolation ena-bling ultrahigh mobility in a pyrene-based molecular semiconductor", Advanced Materials, Early View, DOI: 10.1002/adma.202102914; First published: 05 July 2021
(注2)理化学研究所「有機半導体の結晶構造を有効に制御する」プレスリリース,2020.1.7 
https://www.riken.jp/press/2020/20200107_1/