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ナノチューブのファイバーで温度差から非常に大きな電力を取り出すことを実現

 東京都立大学は2021年8月17日,同大学大学院理学研究科 柳 和宏教授らがJST-CREST研究を通して,ライス大学 Matteo Pasquali教授らと共に,106Sm-1という良好な電気伝導率を示すカーボンナノチューブ(CNT)ファイバーにおいて,フェルミエネルギー(電気化学ポテンシャル)を最適にすることでゼーベック係数(温度差当たりの熱起電力)が68μVK-1という比較的大きな値を示すことを明らかにし,その結果,ゼーベック係数と電気伝導率の積で表される,温度差から取り出すことのできる電力の大きさを表す熱電出力因子(パワーファクタ)が14mWm-1K-2という極めて大きな値を示したことを発表した.この研究は,JST戦略的創造研究推進事業CRESTにより行われ,成果はNature Communications誌に掲載された(注1).また,ライス大学のニュースをナノテクサイトのNanowerkが紹介している.

 近年,デジタル化の進展で,高速・大容量情報処理を行うシステムでは発生する熱を電気に変換して逃がす技術が必要となっている.また,地球環境維持の観点から,太陽光による熱や工場から排出される熱などの,熱電変換による有効活用が関心を集めており,熱電変換する物質開発が重要な課題となっている.

 金属の両端に温度差があった場合の,発生電力の指標は,ゼーベック係数(S)と電気伝導率(σ)の積のパワーファクタ(P=S2σ)で表される.しかし,通常の物質では,Sが大きくなるとσが小さくなるという性質を持つため,パワーファクタを大きくすることは困難であった.しかし,柳教授らは,CNTでは,その一次元性から,このトレードオフが破られることを見出し,実験的知見も得てきた(注2).ただし,先の実験ではCNTの束が乱雑にネットワークを形成した薄膜であったので,σそのものが小さい状況であった.一方,ライス大学のPasquali教授が開発しているCNTファイバーは,二層のCNTが一方向に配列し密な束となっており,106Sm-1以上という非常に良好な電気伝導率を示すことが分かっていた.

 このたび,この良好な電気伝導率を示すCNTファイバーの熱電物性を調べ,予想通り電気伝導率が106Sm-1以上でも,68μVK-1程の比較的大きなゼーベック係数を示すことが分かった.その値は,金線などの約2μVK-1程のゼーベック係数に比べて,10倍の大きさである.パワーファクタとしては14mWm-1K-2という極めて大きな値を示すことが分かった.また,電気化学的な手法を用いてナノチューブファイバーのフェルミエネルギーを系統的に変化させたところ,温度差で発生する熱起電力が正のp型にも,負のn型にもできることが分かり,両方においてパワーファクタを最大にするには適切なドーピングが必要不可欠であることを明らかにした.このファイバーを用い,衣服などに温度差から電力を発生させるウェアラブルな熱電変換や,発熱するデバイスの熱を効率よく取り除くアクティブクーリングなどの応用が期待される.

(注1)N. Komatsu, Y. Ichinose, O. S. Dewey, L. W. Taylor, M. A. Trafford, Y. Yomogida, G. Wehmey-er, M. Pasquali, K. Yanagi & J. Kono, "Macroscopic wearable fibers of carbon nanotubes with giant thermoelectric power factor", Nature Communications, Vol. 12, Article number: 4931 (2021), DOI: 10.1038/s41467-021-25208-z; Published: 13 August 2021

(注2)Y. Ichinose, A. Yoshida, K. Horiuchi, K. Fukuhara, N. Komatsu, W. Gao, Y. Yomogida, M. Matsubara, T. Yamamoto, J. Kono, and K. Yanagi, "Solving the Thermoelectric Trade-Off Problem with Metallic Carbon Nanotubes", Nano Letters. 2019, Vol. 19, Issue 10, pp. 7370-7376.